それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

外れる・・・①

その鎮守神社に常駐の宮司はいない。

f:id:masakahontoni:20200117085402j:plain年末年始の数日間に限り、

普段なら人気のない、境内の古びたプレハブの建屋に 氏子の方数人が集まりお神札を頒布する。


そのお神札を頂き、お参りへ。二礼二拍一礼。

f:id:masakahontoni:20200117090556j:plain通り沿いにある神社の角を曲がると、2坪程の小屋が組まれ、しめ縄やら正月飾りが売られている。
商売っ気など全くなく、ご近所話に興じているところを見ると、こちらも町内の方か?

その路地をまっすぐに進むと郵便局が見えてくる。

手に口の開いた収集袋を持った局員数人が通り沿いに立ち、賀状を投函しようと通りかかる車を待っている。

車から降りずとも賀状を投函ー賀状のドライブスルー投函とでも言おうか。

 

私には幼き頃の郷里の思い出というものがほとんどない、いや、消えてしまっている。

それでも、年の瀬、あの神社からこの郵便局に至る”景色”が当時とほとんど変わらない、とわかる。

それは、多分この辺りの”空気”への”想い”が私の奥底に残っている、せいなのだと思う。

 

「ああ、年末か」

 

年の瀬も押し迫ったこの日初めてそう自覚・自認した。

 

その足でスーパーに寄り、申し訳程度の供物を調達し実家へ向かう。

実家の門をくぐるのはあれから2週間ぶり、となる。

N病院からお呼びがかかり医師との面談に臨んだ日、実家へ足を運ぶ時間がなかった。

 

実家の大掃除などとうに諦めている。そもそも自宅さえ正月を迎える準備など何もしていない。

それでも後ろ髪が”なにか”に引かれるのを覚え、実家の神棚、仏壇に最低限のことはしておきたいと、この日 実家へ足を運んだ。

 

郵便受けをのぞいてみたが、2週間の間に郵送されたものはあまりなかった。

入院後数ヶ月間は、母宛に様々なものが途切れなく郵送されてきた。が、この2〜3ヶ月というもの めっきりと郵便物が減った。

2週間もそのままにしてポストがあふれていたらと心配したが、取り越し苦労だったようだ。

投函されたものを取り出すと、郵便受けの底の方にひっつくように一枚のメモ書きがある。

 

f:id:masakahontoni:20200115141231j:plainお隣さんからだ。

 

「あれれ・・・そこまで 手が回るかな・・・」

 

時すでに夕方。人様のお宅を夕食どきに訪問するのは、避けたいところだ。

この時期は暮れるのが早い。暗くならぬうちに全てを終わらせなければ・・・。

 

調達した供物を仏壇に供え、今回はこれで勘弁してくれと手を合わせる。

f:id:masakahontoni:20200118171513j:plain古びた仏壇の置き台にある線香立ての横には 父の写真がある。どこぞの椅子に座りこちらを見ている。父が母と温泉を訪れた際、部屋の椅子に座った時に撮られたものというのが私の推理だ。父の遺影はこの写真の一部を拡大したものに違いない。

相変わらず笑うでもなく真顔でこちらを見ている。

今の私を見て父はどう思っているのだろう・・・

 

この野郎!

だろうか?

 

そんなもんだろうな・・・。

だろうか?

 

初めから期待などしてない。

だろうか?

 

そのまなざしの奥にある父の思いはわからない。そう、あのときの目だ。あのときから、私には何もわからないのだ。

そして、前後不明確ながら、はっきりと焼き付いていることがある。父の臥せるベッドまで見舞った時のこと、身体の動かぬ父と互いに目が合った、あの時。 

あのとき父はなにを思ったのだろう。何かを悟ったのだろうか。父の目はなにも語らなかった、いや、私にはそれがわからなかった。 父さん、あの時、俺になにを言いたかった? 偶に、そんなことを想う時がある。

出処: 父のこと (回顧録) - それ 認知症かも

どう見られていようが、2018年9.28~29の「あの日」心に決めた道を私は進む・・・それだけだ。

 

実家には仏壇と神棚、がある。

f:id:masakahontoni:20200115155645j:plain母の実家は神道系。何代か前の祖先はとある神社の神主だったと聞いている。それでも母が神棚を拝しているのを私は見たことがない。私の記憶にあるこの数十年、母が毎日の様に拝んでいたのは仏壇だった。

f:id:masakahontoni:20200115155244j:plain母自身から聞いたと記憶しているが、父は旅先で神社を訪れてはお神札を持ち帰り家の神棚に祀っていたと聞いた。しっかりとした棚板をあつらえ、神棚を設けたのはそんな父の主導によるものであろう、というのがこれまた私の推測だ。

父が難病で亡くなってからというもの、神棚を気にかける者はいなくなり放置されることになる。

仏壇には位牌があり、また、年老いた母に神棚は手をかけるには位置が高すぎた、というのもあるのだろう・・・。

 

神棚の米、塩、水を替え、お供えをし、形ばかりの二礼ニ拍一礼。

防犯カメラの電池を交換。

急ぎ戸締まりを確認し、玄関、門を閉める。

 

あたりはもう薄暗い。

早足で隣のお宅へ。

呼び鈴を鳴らすと、玄関から小中学生?といった風の女の子がひょこっと顔を出した。こんな時間に誰?といった顔つきでこちらを見る。

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain隣の真坂です。遅くにすいませんが、ポストにメモ書きが入っていましたので・・・

 

冬休みとなり、親子で実家に里帰りといったところか?

今度は、”お隣さん”が顔を出した。

 

f:id:masakahontoni:20200115151637j:plainあらっ

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain隣の真坂です。ポストに連絡をいただいたので・・・

 

f:id:masakahontoni:20200115151637j:plainどお?お母さんの様子は?そろそろ年も変わるし・・・

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainそれがですね・・・
また骨折しまして・・・今度は大腿骨の方を折ってしまいました・・・

 

f:id:masakahontoni:20200115151637j:plainあらっまぁ!・・・そうなんですか・・・

でも、周りで見守る人はいなかったんですか?

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainそれが、深夜、多分トイレにでもとベッドから降りたのでしょう、物音と、痛がる声がしたので駆けつけると、母が転倒していたらしく・・・

 

f:id:masakahontoni:20200115151637j:plainあららら・・・そうなんですか・・・大変ですね。今はどこにいらっしゃるの?
やはり、x x xx ・・・

 

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施設の名がお隣の口をついて出てくるとは思いもしなかった。

-  外れる・・・②へつづく -