それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

代打登場

ニフレックを飲み始め1時間ほど経過。

様子見に別の看護師さんが入ってきた。

 

「いかがですか?」


「半分ちょっと飲み終えました。

が、未だ何も・・・変わらないですね。
ニフレックは今回が初めてですが、マグコロールの時もそれなりの時間が必要でした。今回も時間かかるかもしれません。」

 

「先程、点滴のルート確保に先ほど来て頂いたんですが、うまくいかなくて・・・他の部屋を先に廻ってから、仕切り直してもらうことになりました。」

 

「そうですか、何かあったら呼んでくださいね。」


その後・・・

2ℓを飲みきるかというその頃、

満を持して、いや、単に他の部屋を廻りきったのだろうが・・・あの男性介護士さん登場。

それではと腕まくり。

f:id:masakahontoni:20220117113035p:plain先ほど ここかな あちらかなと探られた一帯が青黒く変色している。

 

「これは・・・」

思わずもらす看護師さん。皮下出血の様にぎょっとしたのだろうか。

 

(・・・ああすれば、こうなるよねぇ・・・)

 

今回は、心無し指先の震えが落ち着いたように見える・・・

 

が・・・その変化に結果はついてこなかった。

 

最初のトライ・・・

・・・失敗。

 

(・・・)

 

そして二回目・・・

・・・失敗。

 

(・・・)

 

相性なんてものがあるのか?

これ以上続けても、うまくいきそうにない・・・そんな気持ちが膨らむ。

 

(ここまでかな・・・)

 

「今日は日が悪いのかもしれませんね。
仕方ないですよ、誰が悪いわけでもない、
どうするか一旦医師と相談してみて下さい。」

 

ルート確保二の幕、中途半端に終了とあいなる。

 

看護師さんの方で同僚なり、上司なり、医師なり、と相談してほしい、

そして、うまいこと「二の矢」が準備されるといいんだけど、

そう期待した。

幸い手術予定は繰り下がっている。
時間はたっぷり、慌て急ぐ必要もない・・・はずだ、誰にとっても。

 


ルート確保こそ滞っているが、
ニフレックによる前処置は思いのほか順調に進み、予想より大分早くゴールに到着。

 

「ずいぶん早く終わりましたねぇ。」

様子を見にきた看護師さんが笑顔を見せる。

 

2ℓを飲分あまりで分あまりで準備完了地点まで到達するケースは多くないのかもしれない。

 

人の腹具合は十人十色、私の例が万人にあてはまるはずもない。

が、私の場合、大腸内視鏡検査当日の前処置、腸内洗浄をすんなり通過するポイントは
前日のみならず、2・3日前からの食生活にあるようだ。

 

この種の「前処置」で看護師さんを煩わせることは厳に慎みたい、
すんなりと何事もなく済ませたい、そういつも思っている。

その手のことを煩わしく思うことなど看護師さんには端から無いのだろうが・・・
手間のかからぬ方が患者本人共々「色々と」楽、なはず。


昼食時間近く、それらしき物音が廊下から聞こえ出した頃、
女性の看護師さん現る。ルート確保の為に来たという。

ベンチ裏での打ち合わせがあったのか、
満を持しての代打登場に期待が膨らむ・・・

 

1球目、失敗・・・なんのなんの

 

f:id:masakahontoni:20220117141742j:plain2球目、クリーンヒット。

 

「ハイ、入りました!」

晴れてルート確保完了。

 

どこが違ったのか?

それは「思い切り」
・・・そう見えた。

 

あまりに慎重、慎重に過ぎると、考えすぎると、うまくいかない、こともある。
一旦ここ、と決めたら思い切り良く・・・

入れ替わった女性看護師さんはそうだった。

場数を踏んでいるせい? 歳の頃に違いはない。

あの男性看護師さんも他の患者には問題なくことを済ませているはず。

不幸にして私という厄介なケースに遭遇した、ということか?


30分後、確保された「ルート」に点滴のチューブが繋がる。
これより向こう二日間、点滴生活だ。

物心ついてから入院なんてしたこともない私には、まさに初となる点滴。

 

f:id:masakahontoni:20220117131500j:plain自由に動かせなくなった左手を眺め、明日の朝に想いを馳せる。

歯ブラシ? それは右手一本で大丈夫、でも洗顔は?
なるほど、で、ペーパータオルの出番、か。
ああ、持ってきてよかった、ペーパータオル。

トイレは?
試してみるか。

ドア脇に点滴スタンドを、そのまま便座に座ってみる。大丈夫だ。

随分狭いトイレだと思っていたが、これはこれで都合がいいんだ。

パジャマ、パンツの上げ下ろしは片手一本?
でもなんとかなる。

ただ、ドアは開けっ放し。
ハイ真坂さん!と誰かがひょこっと入ってきたら・・・
まぁ、しゃあないか、それはそれで。

 

そして、以後数時間、

予定の繰り下がった手術時間まで、ただ何することもなく待ち続けることとなる。

どこに腰をおろそうが座り疲れからは逃げられない。

ベッドの縁、椅子、またベッドの縁へ、それを繰り返す。

 

持て余し気味のイヤホンコードが妙に気になる・・・

手首には点滴につながるチュープ、

耳からは妙に長いイヤホンのコードが垂れ下がる、

ポジション取りが煩わしい。

 

f:id:masakahontoni:20220117132121j:plain看護師さん達が入れ替わり部屋に入ってくる。
点滴状態を都度チェックしているようだ。

 

とにかく思いのほか、繰り下がった手術予定時までが長い。

KindleもTVも、食傷気味・・・、

気分転換に意味もなく立ったり座ったり、の繰り返し。

それをどのくらい繰り返しただろう。
その繰り返しにも疲れた頃、ようやく「お迎え」来る。

 

自ら点滴スタンドを引き、処置室のある別の階へ誘導してもらう。

 

「術後はベッドに横たわったままお部屋へに帰ってくることになります。」

 

エレベータから処置室のあるフロアに踏み入ると途端に空気の違いを感じる。
無機質な金属感、そんな空気が漂う。

音ならぬ音の反響の違いがそう感じさせているのか?
病室のあるフロアとは全く違う。

 

f:id:masakahontoni:20220117141100j:plainいくつか並ぶ処置室の前に順番待ち用の椅子。
不安そうな表情のおばあちゃんを乗せた車椅子を横に、付添らしき女性が座っている。

後ろ向こうのリクライニングチェアには二人、術後と思しき60代ぐらいの男性が目を瞑り休んでいる。

 

f:id:masakahontoni:20220117133334j:plain「では横の個室で、これに履き替えて下さい。穴の空いている方がお尻側です。
その上から病衣を履いて下さいね。」

 

「えっ?上からまた履きますか?」

 

「えぇ、丸見えになっちゃうので・・・」

 

そうか、いつもの日帰りクリニックとは違う。
行き返りストレッチャーにただ横たわっていればよい、のではない。

丸見えで横を歩き、あのおばあちゃんがひきつけでも起こしたら大変だ。