おもむろに振動し始めた私の時計、振動が止まらない。
なんだよ、と思いながら画面を見る
見慣れぬ発信元番号が表示されている
ドキッとした
局番が郷里のそれであること、すぐにわかったからだ
振動を続ける時計をそのままに、頭の中でグルグルと思いが巡る
登録済み番号からなら、発信元番号は表示されない
まさかまさかの、最近真坂家で話題の警察からか?
振動が止むまでそのままに無視した
道すがらでの軽い気持ちでその電話に出たくはなかった
落ち着いた場所から折り返そうと思った
家へ戻りそそくさと机に向かう
発信元番号をしげしげと眺める・・・
それにしても
なんとわかりやすい、見当のつけやすい番号か
念のためググってみる。
やはり、実家のある当該区域管轄の警察署の番号だ
なるようになるでしょう、とすぐに電話を入れた
もしもし?私、真坂本当似と申しますが、先ほどお電話を頂いたようですが・・・
あっ真坂さんですか? 実はですね、今朝程、お母様がですね、自宅で転倒されましてご自分で救急車を呼び救急搬送されているようです。
搬送先はS病院ですが、そちらの方からお母様のご家族の方の連絡先がわからないと言うことでしたので、こちらでお調べした次第です。今おかけ頂いている番号をS病院の方へお伝えしてもよろしいでしょうか?
それはお手数をおかけして申し訳ありません。私の方からも今すぐS病院の方へ電話を入れることにいたします。
それは恐縮です。一応私どもの方でも真坂様と連絡が取れたことS病院の方へ知らせておきますのでよろしくお願いします。
<早速S病院へ電話を入れる>
真坂本当似と申しますが、母がそちらへ救急搬送されたと先ほど警察の方からご連絡を頂きまして・・・
あっ、真坂さんですか! はい、今朝早朝4時頃、ご自宅で転倒、右足を骨折されまして、ご自分で救急車を呼ばれ救急搬送されました。
おっしゃるには、同い年のご主人が○○に勤めているが出張中で連絡がつかない、ということで・・・携帯もお持ちでないとのことで、どうしたものかと。それではご近所にあたってみたらということで、警察署経由でお調べ頂くこととなりました。
そうですか、ご面倒をおかけし申し訳ありません。実は、母は認知症と思われる症状がありまして、夫も60代半ばで既に亡くなっており、現在一人住まいの状態でした。
あぁ、そうでしたか。お話を伺いながらも、どうもつじつまが合わないなぁとも感じまして・・・お勤め先という○○にも問い合わせたのですが、そのような名前は在籍者名簿にはないと・・・。
はい、生前はそこに勤務しておりましたが。実を申しますと、母が骨折したのはこれで2回目でして・・・
はい、それは伺っております。確か右腕を骨折されたと・・・
いいえ、骨折したのは左腕でした。本人は時々に、右腕、という認識のようですが。その際は、N病院に救急搬送され、その後T病院に転院、そこで手術となり、2ヶ月程で退院しました。けがの具合は今回どのような状態でしょうか?
そうでしたか。T病院にも問い合わせしたのですが、今日は休日ということもありわかりませんでした。骨折は右足下部、2カ所折れていると聞いておりますが、詳細は担当医からご説明させて頂くことになります。
つきましては、一度こちらへお越し頂き、手続き含め、担当医との面談の予定を立てて頂きたいのですが。
保険証、お薬手帳などはお母様が持参されていましたので、印鑑以外特に準備頂くものは今のところありません。寝間着・着替えなどは病院の備えのものが有償ですがありましたので大丈夫です。
それでは、明日そちらへ伺いますのでよろしくお願いします。
S病院への連絡を済ませ、妹、親戚のTさん、そして地域支援包括センター担当者ヘ「母骨折」の報をメールした。
なんということか
心底そう驚いたわけではない
結局こうなってしまうんだよな
正直、諦めにも似たそういう思いの方が大きい
骨折だけはもうするなよ-大丈夫だよ気をつけてるから-気をつけて骨折しないなら、あれほど沢山の人が骨折で入院してないでしょう?
それ見た事か、いわんこっちゃない
と心に浮かんだわけでもない
悪い予感は現実となってしまうんだよな
そういう思いの方が大きい
間に合わなかったんだよな
とも思う
関係先へメール連絡の作業を行いながら、Tさんのあの言葉が浮かんできた。
そして私は、包括さん宛メール文中に「帰省時には状況のご報告にあらためてそちらを直接お伺いするつもりです」と付け加えるのを忘れなかった・・・。
包括支援センターに入ってもらったということは、大きな一歩です。
今後、何かの出来事、例えば、転倒、徘徊、もの盗られ騒ぎ等、を契機に入所の動きを勇断すべきで、そういう覚悟を包括センターの担当者に伝えておくことが必要かもしれません。
本人の意向を尊重するあまり、事が起きてからの動きが遅れ、タイミングを逃してしまうことも心配されます。自宅療養の限界を、包括センターと家族の間の共通認識として、「こんなことが起きたらどうする」、「こういうことになったらこうお願いします」という打合せをあらかじめ行っておいた方がいいかもしれません。