年末ということもあり渋滞にでも巻き込まれたら、と心配していたが、そんなこともなく程なくして施設に到着した。
1ヶ月ぶりの施設を母はどう感じるのだろう?ここはどこ?となるのだろうか?
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いつもの玄関を通り抜け、ユニットの中に入る、介護士さん達が次々に母に声をかけ迎える。
あらっ、真坂さん!
お帰りなさい、真坂さん!
あっ、お久しぶりぃ〜、真坂さん!
元気だった?真坂さん!
誘導されたのは、「新たな」母の部屋。
前日に施設長と打ち合わせた、母の新しい居室だ。
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あっ、真坂さんですか・・・xxです。いよいよ明日は退院ですね。私の方の時間が押してしまった場合は、担当の者が伺いますのでよろしくお願いします。
それと一つご相談なのですが、今のユニットの方に移動していただいたばかりではありますが、ご了解いただけるなら別のお部屋に、と考えています。
夜間含めて介護士が待機している一角から死角の全くない、直線的に見守りやすいお部屋の方がと思い、同じユニット内で別のお部屋に移動していただこうかと思うのですが?
そうですね。その方が心強いです。よろしくお願いします。
わかりました。それでは、お部屋の準備をしてお母様をお待ち申し上げております。それと、N病院からの引き継ぎの件ですが・・・
はい・・・
お知らせいただいた内容よくわかりました。緊急に決めねばならぬ案件ではないと思いますので、後日ご相談させていただきたいと思います。
そうですね、よろしくお願いします。
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どう?母さん。勝手知ったるこちらの部屋の方が落ち着くかな?
そうだね、前はちょっと違う部屋だったと思うけどね。
(おや、ベッドも家具も配置は同じだけど、そうわかるんだ・・・)
とにかく早く退院できてよかったよ。
でも先生が言っていたよ、母さんは前向きにリハビリに取り組んでいて素晴らしいと。そう 褒めていたよ。
あら、そうかね?
ただ、こうも言っていたよ。だからといって張り切り過ぎて無理するとまた骨折する可能性が高くなるって。
えっ、そうなの?
片側の大腿骨を骨折した人は、もう片方の大腿骨をまた骨折する人が多いらしいよ。
そうなの、それは大変だ。
注意はしてるんだけどねぇ。
母さんも骨折のベテランだからわかると思うけど、きまって夜中とか早朝に骨折してるでしょう?完全に目が覚めていないうちに、足元のおぼつかないうちによろよろと歩いて転倒している気がするよ。
そうだねぇ
起きるときにはしばらくベッドの中で深呼吸でもして完全に目が覚めてからの方がいいね。
しばらくは車椅子生活が続くから、一人で無理してまで動くことはせず、そこのナースコールを押せば介護士さんが来てくれるから、手伝って貰えば車椅子の乗り降りで転んでしまうこともないはずだよ。
そうだねぇ
なんとか自分一人で、と寝ぼけ眼で頑張っちゃったばかりに、すってんころりんでまた骨折、またN病院で痛い痛いと泣き叫ぶのは嫌でしょう?
いやぁ、もうやだね。
それに冬になると、皆体が硬くなるんだよ。そのぶん足元もおぼつかなくなる。
まして日本の家屋だと、敷居などの段差も多い、冬になればぼってりと厚くなった靴下で畳の上を歩く。
こたつが部屋の真ん中にどんとあって、こたつぶとんの境目がさらにあぶない・・・
みんな気をつけていると思うよ。
でもどこの整形外科もこの時期はお年寄りでいっぱいだ。
もう、気をつけてるから、とか、注意してるから、とかじゃダメなんだと思うよ。
今までと違う生活にしないと、結局また転倒するんだと思う。
骨も弱いんでしょう?
そうだね。多かれ少なかれ歳を取れば骨が弱くなる。
昔だったら、食べるために畑に行ったり調達に行ったりしなければ満足なものも食べられない。
それが今は電話一本だ。コタツでゴロゴロしながら電話すればなんでも持ってきてくれる。
そうだね。
で、結局皆さん好きなものしか頼まない。
甘いお菓子のようなものばかり頼んだり、面倒だし食欲がないから麺類ばかり、とか。
それじゃぁ、栄養は取れない、外に出る必要もないので家でゴロゴロ、運動はもちろんしない、ますます骨は弱くなる、というわけだ。
昔の人の方がそういう意味では、いやでも動いたから丈夫だったんじゃないかな。
そうだねぇ。
ここにいれば、病院の栄養士が献立を考える。バランスのとれた食事ができる。食事は3度3度食べていたんでしょう?
ああ、ちゃんと食べてるよ。
それは大したもんだ。食欲がある、というのは健康な証拠だよ。
何処かでしたようなやりとりを繰り返しているところへ、一人の男性が部屋に入ってきた。
- お帰り・・・②へつづく -