以上の用語をベースに、本書の内容に入っていきます・・・
本書は7章から構成されていますが、この順番を踏襲せずに取り上げていきます。
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まずは、アルツハイマー病治療法開発への道のり(第5章)→(第3章)あたりにかけて。
今ある薬はアルツハイマー病を発症してしまった患者の「症状を抑える」、あるいはその「進行を緩和させる、抑制する」ための薬ばかり。(筆者の表現を借りれば、アルツハイマー病の下流域に作用する薬ばかり)
開発が待たれているのは、アルツハイマー病の根本治療薬、病の最上流に働きかける薬・・・。
アルツハイマー病といえばアミロイドβ、アミロイドβといえばアルツハイマー病
と 切っても切れない間柄のごとく伝えられていますが、
実は健康な人の脳内、体内でもアミロイドβが生じていることを、耳にすることは多くありません。
脳内で生じたアミロイドβは蓄積されてしまうことがあるのに、なぜ体内ではそうならないのか?
つまり体内ではアミロイドβを分解する何らかの仕組みがあるのではないか?
そこで注目されたのが、先に登場した分解酵素セクレターゼ。
分解、と言ってもこのセクレターゼはハサミの役割。アミロイドβ前駆体タンパク質(APP)を切り出す役目。
切り出され方によってその断片が有害なアミロイドβ(アミロイドβにも毒性の強いもの、そうでないもの、等いくつか種類がある)であったりする。
このセクレターゼを「なんとかすれば」毒性の強いアミロイドβが切り出されるのを抑えることができるのではないか?
ところが、この探求は副作用が出るわ、効果が得られないわ、で中止に。
先に振り返った、アルツハイマー病の脳にある三つの特徴~脳萎縮、老人班(=アミロイドβの神経細胞外沈着)、神経原線維変化(=神経細胞内のタウ凝集)・・・
では、老人班(Aβ)と神経原線維変化(タウ)、どちらが先に起こるのか?
それは老人斑(Aβ)だ、というのが「アミロイド仮説」、この仮説がこれまでの主流。
APP(=Aβ前駆体タンパク質)からAβが切り出され、神経細胞外に放出
神経細胞の周りに蓄積・沈着して老人班になる
老人班が神経細胞にダメージを与える
シナプスや神経細胞が傷害され、神経内部では神経原線維変化(タウの凝集)が起きる
という流れ。
この仮説に基づき,Aβを標的とする多くの薬が開発されてきた。が・・・
2002~2012年で臨床試験に進んだ薬の失敗率は99.6%、実用化したのはメマンチンのみ。失敗が相次ぎ、Aβを標的とする戦略の見直しも図られることに。
ところが、ほんの数年前の2012年、アルツハイマー病になっていない高齢者のAPP遺伝子に変異があることが発見される。
APPのアミノ酸配列の673番目にこの変異を持つと、発症可能性が通常の1/5~1/7、変異を持っている人は持っていない人に比べ高齢でも認知能力に問題がないことも判明。
A673T変異はアルツハイマー病を防ぐ遺伝子変異であり、認知機能低下を防ぐ遺伝子、であることが判明。
この遺伝子変異は、APPからアミロイドβが切り出されるときにβセクレターゼが働く位置のすぐ近くにある。故に、アミロイドβの産生を減少させている(βセクレターゼの働きを抑制している)のではないか?(筆者の見方)
このことから、βセクレターゼ阻害薬開発の重要性が注目されることとなった、という。
◼️-メルク社のMK-8931は2013年末から、フェーズ3試験を開始、その後(本書発刊後)→2018年に試験中止を発表
◼️アストラゼネカ社・イーライリリー社のAZD3293は2016年からフェイズ3試験を開始、その後(本書発刊後) → 2018年、米イーライリリー/英アストラゼネカ、BACE阻害剤「ラナベセスタット」、第III相で開発中止
◼️エーザイ社・バイオジェン社共同開発中E2609(アデュカヌマブ)は2016年度中にフェイズ3試験開始予定(本書発刊当時)。その後(本書発刊後)の経過については前回取り上げたような経緯をたどり、一時エーザイ株価が暴落・・・。
その後当年1/29、バイオジェン側が追加の解析+臨床データ提出に応じたことで、審査終了日目標が今年の6/7まで延長。
そして米国時間の先日6/7にどうなったか・・こうなった↓というのが現在。
8日午前の東京株式市場で、エーザイ株に買い注文が殺到している。米バイオ医薬品大手バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」が米国で承認されたことを受け、業績向上への期待が高まっている。
一方、アミロイド仮説への疑問から、Aβに代わる標的として近年注目を集めているのがタウだという。Aβは単なる引き金に過ぎず,タウの蓄積こそが認知機能障害の真の原因ではないか、としてタウをターゲットとした取り組みも注目されているらしい。
ここまでが、アルツハイマー病とは何か、脳内で何が起きてこの病になるのか、についての部分です。
次は遺伝子に関わる部分ですが、この本の中核をなすものではありません。故にさっと通り過ぎることにします。
少々カタカナが登場しますが、僅かなので我慢してください。
それは、アポE(APOE)。
これはアルツハイマー病の遺伝子の単位(アポリポタンパク質Eの略称)。単なる呼称なのでそのまま受け止めるしかありません。このアルツハイマー病に関わるアポEの、いくつかの種類を紹介しているのがこの書籍の第4章。
但し筆者としては;
確かにアポE4は危険因子である。
が、その有無で将来の発症を予測判定することはできない。
アポE4遺伝子を持っているか否かにかかわらず、心身ともに健康を保つ規則正しい生活を心がけ、バランスのとれた食事、適度な運動を続けること、つまり、アルツハイマー病発症のリスクを減らす生活。
こそが大切、という立場。
以前、私も遺伝子検査を受けたことがあります。
そもそもは、父が難病で亡くなっており、その遺伝リスクが気になった。(なお、ALSにおいて遺伝との因果関係は薄いとされています。が現代の医学でそうであっても、それが近未来・未来の医学ではどうなるかわからない、と個人的には今でも思っています・・・ある種の変異リスクの大小があるのでは?と。)
アルツハイマー病の治療も、ひょっとすると、何十年か後には「673番目の遺伝子を書き換える」ことで対処が可能になる日が来るかもしれません・・・。
以下は参考まで。
アポEという遺伝子には2型、3型、4型の三種類があり、父親から一種類、母親から一種類を受け継ぎます。つまり、子どもが持つアポEの遺伝子パターンは、「2・2」「3・2」「3・3」「4・2」「4・3」「4・4」の6種類のうちいずれかになります。
出処: 認知症に遺伝はある?認知症のリスクを高めるアポE遺伝子を解説! – 転ばぬ先の杖
- 遺伝子型は6パターンある
- タイプ4のアルツハイマー型認知症のリスクについて
- 認知症専門外来でも比率は多い
- アポEを測るべき人とは
- タイプ4を持っているとわかったら
- 一つだけなら生活習慣で対応可能
- 前頭葉機能低下していたら・・・
- 引退を前提とした人生設計も
※APOEε4によるアルツハイマー病発症への影響
そして、ここから以降がこの筆者が一番この本で伝えたかった部分、第6章になります。
- その⑤へつづく -