<ホップ・・・>
あと一日で入所予定日。
私はA施設を訪ねた。
配達日時指定で発送した母の身の回り品を受け取り、入居予定の部屋に運び込む為に。
荷物の到着予定時間までは未だ余裕があった。
では先に手続きをということで、施設の事務室で入所手続きを行う。指示されていた証明書等を提出し数々の書類に署名捺印す。
平成31年と書き込みそうになるところを一呼吸おいて「令和元年」と綴る。
しかし、不思議だ。
自らの誕生日前日に骨折し、誕生日当日をS病院で迎えた母、
そして、母の年代にはあまり関係ないイベントかもしれぬが、バレンタインデーに手術をし、令和元年まさにその初日に入所する・・・
こういうことに偶然以上のものを感じてしまう(感じようとする、こじつけようとしてしまう)・・・。
署名・捺印作業がやっと終わる頃、顔を上げた向こう正面にあるホワイトボードに張り紙があるのが目にとまった。
B5版状のそれには名前が書き込んである。名前は二つ、内一つは母の名。
もう一人Tさんという方が入所されるんですね。
はい、10日ほど後に入所予定です。丁度真坂さんの部屋の隣になります。
話し相手になってもらえるといいのですが・・・。
大丈夫だと思いますよ。とても明るい方だから。
介護度はどのくらいですか?
1です。車椅子の方で(K病院併設の)老健を退院されてこちらへ入所されるんです。
(それまで母が ”時間を持て余す”こと無いようにすることが肝心・・・やはりデイサービスかな・・・)
施設内の静かな空間に割って入るように、事務室横の自動ドアが開き、威勢のいいかけ声と共に宅配業者が現れる。
荷物到着。
段ボールを部屋に運び入れる。
施設の部屋にはベッド、そしてサイドテーブル、チェストが備え付けられている。チェスト以外は移動可能で部屋の何処へ配置してもかまわない。
部屋の広さはお上からのお達しとはいえ、私にはだだっ広い感じがする。
車椅子、歩行補助器等が使われることを考えれば、スペースにこの程度の余裕が無いと動きづらいのかもしれない。
【施設入所に際し持ち込むもの(必要なもの)】
紹介しているサイト等もありますが、施設により備え付けのものに違いもあり、自前でそろえるべきものも異なる可能性もある。
施設長の方からリストにしたものを渡されていたので、特に迷うこともなく準備はできた。
平日の昼過ぎだったこともあり、殆どの方はデイサービスに出かけている。側におられた介護士さんお二人に挨拶
明日入所予定の真坂です。よろしくお願いします。トイレの方は部屋を出て直線コースですし、歩行補助器を使いますので大丈夫とは思っていますが・・・
こちらこそよろしくお願いします。トイレには、補助器のまま入れますから大丈夫です。
よろしくお願いします。真坂さん・・・あの・・・排泄の方は介助が必要になりますか?
いえ、必要ないと思います。
おむつの方は使われているのですか?
おむつも現在はつけていません。
(なるほど・・・まずはそこからか。肝心なことには違いない・・・)
一通りの準備を終え、皆さんに挨拶済ませ施設をあとにする。
すっかり常宿と化した駅前のホテルに今晩は宿泊。明日は入所となる。
粛々と決められたことをこなしてゆくしかない。
チェックイン済ませ部屋に入る、何気にTVをつける。
世の中は「さようなら平成」で盛り上がっている。明日から令和、歴史的一場面。
私にその感慨はない。
枕もせず、着替えることもなくベッドに横たわったままいつしか寝入ってしまった。
<ステップ・・・>
気がつけば早朝。熟睡などできるはずもないが、眠くはない。
つけたままのTVが「令和」初めての朝を報じている。
令和元年五月一日、入所の日だ。
数時間後、私はK病院にいた。相談室、と札のある部屋に入ると既にサービス担当者会議が始まっていた。
先に始めてしまって済みません。今日はよろしくお願いします。
こちら老健のデイ責任者の○○さん、こちらがCデイのチーフ○○さん、こちらがK病院看護師師長の○○さん、担当の療法士さん、そしてA施設施設長、K病院相談員、私の7名で始めさせて頂いております。
それでは、お母様をお呼びいたしましょうか?
私、ケアマネさん、相談員さんで病室まで母を迎えに行く。私以外にも人がいるため母も愛想がいい。お世話になる方を紹介するからと誘われ 歩行補助器と共に「相談室」まで共に歩き出す。
「相談室」ドアを開けると、一斉に皆が起ち上がる。
こちらが真坂さんです。真坂さん、ご紹介します、こちらが・・・・・・。
母は方々を紹介されにこやかに挨拶する・・・勿論それは外交辞令のようなもので初対面の方に母がいつも見せる対応以上のものではないのだろうが。
老健デイの責任者が直ぐに話しかける
あ、私は初めてではないんですよ。病室からいつもリハビリに来られているでしょう?いつも頑張ってるなぁって、遠くから見てるんですよ。
あらっ、そうなの?それは知りませんでした。
母には見知らぬ人達ではあるが、笑顔で迎えられきちんと挨拶を交わし悪い気はしないはずではある。
相対する-特にデイ関連事業者の方々にとっては、母が「相談室」に入ってくる様子、その歩き方、僅かなりとも言葉を交わすことでの印象、等全てがこのサービス担当者会議に含まれる一つの大切な場面なのだ、と母の一挙手一投足を見つめる各々のまなざしから そう感じた。
一通りの挨拶が終えた母を相談員の方に病室まで送って頂く。この段取りは、私があらかじめケアマネさんにお願いしたことを十分汲んで頂いてのものに他ならない。
母の集中力・理解力では会議への出席は耐えられない、そして誤解による負の影響が入所という大きな出来事にマイナスに作用するのではという懸念から、挨拶程度の顔見せで済ますようにしてほしいと私から申し入れたものだ。
K病院看護師長さん、療法士さん、A施設施設長、K病院併設老健デイ責任者、Cデイ担当者、ケアマネさん、相談員(社会福祉士)、私で会議は進む。初めてサービス担当者会議なるものに出席したが、打ち合わせ、申し合わせ、情報共有と表現した方が私のような立場の者にはわかりやすい。
それでも私には、看護師さん、療法士さんから見た母の状態、どこをどう見ているのかが具体的にわかったことがとても大きな収穫だった。
それらを軸に、ではどういったことに留意して具体的にどのようにという点がサービス提供事業者との間で打ち合わされ、A施設側、家族(私)含め皆で情報共有する。
直近の、術後患部の皮膚の処置、ぐらつき始めている奥歯とそれに関わる食事、についても、何をどのようにどこで行うかも取り決め共有した。
私からは;
- デイサービス自体初体験のため、あまり多くを最初から望むと興味が薄れてしまうとまずいので、まずは慣れるところから。内容(リハビリ・トレーニング)も軽めから様子を見ながら徐々に、と段階を踏んで欲しいこと。
- 片側の膝が変形性膝関節症につき、時として痛みが出る。この点、補助器での2足歩行を始めて間もないので表面化していないが、今後そのような訴えが当人から出てくる可能性があること。
- 視空間認知力に衰えあるので、トイレに迷う可能性があるので見守りをお願いしたい。
- (院内レクでカレンダーの塗り絵には熱心だったという療法士の話を受けて)自宅でも草花を育てたり、入院前はそういった関連の塗り絵など喜んでやっていた。その手のレクならすっと入っていけると思われる。
など合わせて皆さんにお伝えした。
他詳細は省略させて頂き・・・以下、席上の四方山話・・・。
老健デイ責任者の方とは先日見学の際に挨拶交わしているが、Cデイの方とはこの日が初対面。(事業体のことについては事前に一通りのこと調査済み)
初めてなので少々私どものことを説明させて頂きます・・・
(アレ、コレ、ソレと説明有)
老健さんのデイは老健という看板があります。それに比べると、私たちはそういう看板のない全くの民間。親会社が認知されているとはいえ、看板から生じる違いは意外と大きいんです。
より強く特色、独自色をアピールしていかないと業界では生きていけないんです。
そんなことないでしょう?
いや、本当です。看板の差は大きいんです。
そこで、例えば、大抵の場合のデイサービスで参加者様が持参するタオルや歯ブラシ・・・そういったものを準備する必要なく手ぶらで参加できるようなサービスを目指すとか・・・歯ブラシは使い捨てで対処するとか・・・そういった所でも差別化を図っていかないと難しいんです。
そして会議後の談笑で皆さんが一様にうんうんと頷いていた話題があった。
そう、この日は令和元年五月一日、そして昨日は平成最後の日・・・
やはり都会は凄いわねぇ
あんなに盛り上がって、お祭りだものねぇ
こちらではどこにもそんな気配ないです・・・
そうねぇ
エネルギーが違うのね
私は苦笑で応えるしかなかったが、
あの騒ぎの中にも地方から馳せ参じた人達も少なからずいるはずで・・・
ただ私自身は、母の退院→入所 という目前の問題に気を取られ、周りで起きていることに思いを馳せる余裕がない、というのが正直なところ。
世は10連休でも、病院に休みはない。
外来診療こそ行われないが、現場の看護師、介護士、療法士、は通常通り、デイサービスも然り。
施設では、いつもと変わらず高齢者の体を洗い、下の世話をし、といった介護活動が淡々といつも通りの時間軸で流れているのだ。
(”ホップ・・・ステップ・・・そして”、へつづく)