それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

3度目の手術③・・・錯乱



母の様子を伺うため、私は病室に戻ることにした

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainどう?

 

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainどうって、ここはどこなの?

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainN病院。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainN病院?聞いたことないねぇ。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain骨折して救急搬送されたんだよ。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plain骨折?近くの砂利道で躓いただけでしょう?

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainいや、部屋で転倒してここに運ばれたんだよ。そして今手術が終わったばかりだよ。

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plain手術!?聞いてないよ、そんな話。

まるで人体実験じゃないか!

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain・・・。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain折れたものは仕方がない、何を言ったところでくっつくわけでもない。

お医者さんにお任せして、看護婦さんのいうことを聞いていれば前のようにすぐ良くなるよ。

 

 

会話には集中が続かないのはいつものことではある。

この日は更にも増して注意が散漫になっている様子・・・

 

母の眼球が小刻みに動くとき、その視線の揺らぎと共に 母の意識も一所に留まることなく移ろっている。

これが母の患った病の「症状」でもある。

 

 

この時も、母の意識は骨折云々から離れ、他の「案件」に向かっていた・・・

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plain・・・ちょっと寒いんだけど!

 

 

f:id:masakahontoni:20191219160442j:plain今の今、母が心囚われた感覚-「寒い」が今の母には唯一無二の「案件」なのだ。

母は、あれもこれも複数のことを意識の中に置くことはできない。

痛い!と感じた時、あふれんばかりの「痛い」という思いで母の頭はいっぱいになる。

寒い!と感じれば「寒い」でいっぱいになる。

二つ同時に「痛い!そして寒い!」ということにはならない・・・のだろう。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain母さんは寒がりだからね。でも暖房はしっかりついているようだよ。

手術が終わったばかりで、その影響があるかもしれないね。

パジャマがまくれて背中が出ているのかもしれないけど、手術したばかりの今、勝手に俺が直接触るのは危ないから、看護師さんにお願いしてみようかな?

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainわかったよ。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainそれとね、昨夜は夜中にずいぶん大声を張り上げて、皆さんに迷惑をかけたらしいよ。

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainそんなことはないよ。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain多分覚えていないんだよ。母さんは欲求に対して理性をなくすところが昔からあるからね。

一番最初の骨折の時もそう、搬送先の病院で、夜間おしっこがしたいと声をあげ、なかなか看護師さんが来ないと大声で怒鳴り始め・・・看護師さんから怒られた。あなた一人じゃないんですよ、と。

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainそんなことあった?よく覚えてるねぇ。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain母さんより若いからね。年相応の記憶力はあるよ。

そして、今回も・・・昨夜はすごかったらしいよ。
夜中にトイレに行きたければおしめの中にすればいい。骨折してるのだからトイレまで行くのは危険だ。それが、自分の下半身を触り、管を抜いたり、汚いティッシュを所構わず投げ捨てたり・・・

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainえぇ!

やだねぇ、まるで気狂いじゃないか。信じられないね。

 

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain母さんは、痛い、とか、おしっこがしたいっ、とかの欲求に理性をなくして辺り構わず主張する気があるからね・・・
いずれにしても、一人でここにいるわけじゃない、周りにも入院している人が沢山いる、夜中にあたりかまわず大声出したら皆さんに迷惑だからね・・・

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainわかったよ、大丈夫だよ。

 

 

f:id:masakahontoni:20180906123454p:plain(覚えていてくれるかな・・・)

 


f:id:masakahontoni:20180823154054p:plainそれじゃぁ、今日は一旦帰るよ。

最寄りの駅は近いけど、肝心の電車は1時間に1本しかない・・・

くれぐれも夜は静かに頼むよ。

 

f:id:masakahontoni:20180823153903p:plainそうなの? すまないねぇ。今日はありがとう。

 

 

病室を出、ナースセンターにいた先程の看護師さんに声をかける。

 

f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain今日はこれで失礼しますが、週末にまたお邪魔させていただきます。

母には先程の件を伝え、本人も了解はしていました。

ただ、それを記憶に留めておいてくれるか心配ではあります。

 

 

早足で最寄りの駅に向かう。

駅に近いというのはありがたいが、乗り遅れると次の列車は1時間後。

毎週訪れていた老人ホームと「交通の便」ではあまり変わりなさそうだ。

 

f:id:masakahontoni:20180906123454p:plain(つまりはこちらへの行き来も今までと変わぬ時間割で対応可能、ということか・・・。)

 

新幹線に乗り継ぎ、妹と施設長にメールをしたためる。

手術が滞りなく終了した事、どうやら母がせん妄状態にあり導尿カテーテルを抜いてしまう等々の問題が起きている事、等々手短に報告を入れた。

 

自宅付近の駅に向かうローカル線に揺られる頃には、

頭に浮かぶこともなくなり、窓の外を流れる街明かりを唯々ぼーっと見つめていた。

 

・・・そんなとき、

 

突然の振動にビクッとする・・・

 

着信だ・・・。

 

- 3度目の手術④につづく -