前回の手術のことがぼんやりと浮かぶ
2回目の骨折で担ぎ込まれたS病院、
整形外科フロアの端、
そこにある談話室で唯々待ち続けた。
あの時は午後だった。
日が傾きかけても手術終了の通知が来ない。
気を揉み悶々としていたあの時。
今回もまたそんな展開になるのか?
個人病院という規模もあってか、「談話室」という名の待合室などここN病院には無い。
ナースセンター側、一角に置かれた長椅子、どうやらそこで待つことになるらしい。
そこでと指示されたわけではない
が、他の選択肢もない。
~~~~~
この日、手術時間に間に合うよう病院に入り、署名済み「許諾書」をナースセンターに提出し、母の様子を病室まで見に行った。
一見、冷静に見える母に声をかける。
やぁ、どうだい?
特にどこも悪くは無いよ。それなのに手術らしいじゃない。
そんな話は聞いてないよ。
大腿骨骨折はほぼ100%手術になるらしいよ。
骨折やその痛みで頭がいっぱいで記憶が飛んでしまったのでしょう。
折れてしまったものは仕方がない、お任せするしかないんだよ。
母の「手術とは聞いてない」は想定内だ。前回もそうだった。
そして”前回”と似たような問答が展開する・・・
程なくして「それではそろそろ」と看護師さん達が一人、二人とストレッチャーと共に病室に入ってくる。
それでは終わるまで待ってるよ。後ほど会いましょう。
納得できない、といった風の母に”通告”し、
「よろしくお願いします」と看護師さん達にお願いをし、
表情すぐれぬ母を後ろに病室を出た。
ナースセンターそばの一角にある例の長椅子に腰を下ろそうとした時、
開け放たれた病室のドアから母の声が聞こえてきた。
「なんなの?聞いてないんだけど?」
数秒後、今度は悲鳴にも似た叫び声が廊下に響く
「痛いっ!いたぁ〜い、痛い、痛いよぉ」
「ごめんなさい、真坂さん、痛かった?ちょっとの辛抱ですからね。」
看護師さんの声も響く。
「いたい!いたぁーーーいぃぃぃっ!」
二人がかりでベッドからストレッチャーに移しているのだろう。
・・・
声が止んだ、
と、ストレッチャーに載せられた母がこちらに向かってくる
私のいる「一角」の前を曲がりエレベーターのある方へ
真坂さんの旦那さんってxxxだったんですって?
母の気をそらすべく看護師さんが話しかける
えぇ、そうなんです。
どちらでお仕事されていたんですか?
はい、xxxで、
へぇ〜そうなの!
真坂さんのお兄さんってxxxなんでしょう?
はい、そうなんです。一番上の兄なんですけどね。
へぇ~すごいですねぇ?
痛い痛いとあれほど絶叫?していた数十秒前、
”体勢”がストレッチャー上に落ち着き 取り敢えずの痛みがないとは言え、母の変わり身?も早い・・・
長椅子から立ち上がり遠目に覗き込む。「一時の状況から脱した」母の横顔が すぐにエレベータの中に消えた。
~~~~~
”前回のように”窓があるわけでもなく、外の景色で気を散らすこともできない。
いや、何をしようという気にもならない。
まんじりともせず、とはこういう状況の事か?
2時間ほど経過し、”こういった状況”が初めてではない私が
「そろそろかな」と 座り心地に我慢できなくなり足の組み直しが増えだした頃
母を乗せたストレッチャーがエレベーターから姿を現した。
麻酔は下半身のみと執刀医は言っていた。
病室に入った母は確かにすでに意識があり受け答えも可能な状態ではあった。
お疲れ様。早かったね。
とろんとした母の目に視線を合わせ声をかけると、力なく母は頷いた
ここはどこなの?
N病院だよ。
N病院?どこなの、知らないよ。
骨折して救急車で運ばれたんだよ。そこがN病院。
骨折?
朦朧としているようだ。
残る麻酔薬のせいなのか、そもそも母の短期記憶の衰えに起因するものなのか、それはわからない。
それでも私は内心安堵していた。
術後に痛い痛いと大騒ぎする、それがいつもの母だったので。
いや、下半身は幾分かなりともまだ麻酔薬が残っている状態に違いない、
となれば麻酔が切れてからどうなるか、
”大騒ぎの”山場はこれからなのか?
- 3度目の手術②・・・「知らぬはxxばかりなり」へつづく -