秋深まれど未だ新たな台風の動きが気になるこの頃。
その一方で 日の入りは”地球上の何か”に影響されることもなく 刻々と刻まれる時とともにおとずれる。
30分前、そろそろかなと1ブロック程斜め先向こうに位置する新東京ビル内のスターバックスを後にする。
1時間ほど前、まだ十分に明るかった街並み、それがもう薄暗くなっている。
角にあるHermesの店内がより明るく浮かびあがるように目に入る。
これも都市計画というものの一部なのかもしれない。
明るく照らされた店内が、夕暮れの中で暮れゆく通りとは対照的に際立つ。
仲通り両側に並ぶ店舗それぞれが まるでリビングの間接照明のように 道ゆく人々の心を和ませるのに一役買う、そんな企てなのか。
皇居の御堀端横の日比谷通りに並行するように ビル街つらぬく仲通り、週末で交通規制中のその一角を目指す男女、親子が向かい方向から途切れなく歩いてくる。
人の波間を泳ぎ渡るのには慣れている。
1ブロック程度を直進、角を曲がり数十歩も進めば、帝国劇場だ。
劇場前は混雑していた。
待ち合わせなのか、唯々立ち話に興ずる人、記念写真を、セルフィをという人、「総じて」年配のご婦人方、続いて中年の男女が圧倒的に多い。
人混みの中をゆっくり泳ぎ進み、入り口からロビーへ進む。
そこは更に隙間無くごった返していた。
この日この時間の丸の内界隈で、一区画あたりの人口密度が一番高いのはこの場所に違いない。
オペラグラスを貸し出すカウンターに辿り着くも、既に5人ほどが列をなしている。
どうやらご婦人方の目的は謹製のお菓子らしい。
あれがいい?いやこれが?と顔を見合わせ決めかねる人、お土産用にするのか紙袋いっぱいに所望する方、開演20分程前でも それを気にするそぶりはない。
一人焦った所で仕方ない。
やっと回ってきた順番に、8倍のをお願いします、と借り受けたオペラグラスを掴み二階に通じる段を上った。
松本白鸚氏演ずる「ラ・マンチャの男」を観るのは2015年に続き2回目、いや 正確にはその際2度観ているので、今回3回目になる。
久しぶりに、と期待した。
前回同様千秋楽は是非、というのが望みだったが、その日は母を施設に見舞う日。別の数日前の日に予約を入れた。
その後、通算1300回目の公演となるこの夜の部に空席がある、というので”何かを期待して”追加で席をとった。
(後日、台風19号襲来のため12日予定の公演が急遽中止に。1300回目は21日にずれ込むこととなる・・・)
4年前に比べ、場面場面に手が加えられ台詞が変わり、観客がよりわかりやすいように、という思いを感じる。
終演近づく頃には感極まった故と思しき気配が観客席のそこかしこから感じられ、隣席の方も涙を拭われているようではあった。
そんな中、そんな雰囲気に今一つ馴染めぬうちに、幕が下り、私はとぼとぼと帰途についた。
帰りの電車、ドア近くに立ち 流れる外の景色をぼんやり眺めながら人知れずつぶやいた。
今日の彼はベストコンディションではなかったのかもしれない・・・
今年で50周年を迎えるという「ラ・マンチャの男」 。
松本氏演ずるドン・キホーテの名台詞として巷で何度も挙げられ続けている言葉がいくつかある。
例えば、
事実は真実の敵だ
であったり、
一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ
などが、それだ。
50年、1300回にわたって、毎回繰り返しドン・キホーテ、松本氏が詠い続け、演者の思いが一つの頂を上り詰める場面でもある。
涙、噴き出す汗、果たしてそれが涙か汗か鼻汁かわからぬ程に照明に輝き、目を見開いたその表情、発せられる言葉と言葉の間、その息づかい、それら全て、が観る者に”何か”を乗せ伝わるのだろう。
いや、今日ベストコンディションでなかったのは、俺自身かもしれない・・・
果たして、次回は運良く波長が合うのだろうか?
私の動揺は治まらなかった。
上演回数1300回に到達 白鸚が感涙 https://t.co/b4VwUxBRbl
— 東宝演劇部 (@toho_stage) October 21, 2019