ピィィ~、ピィィ~、と
OPPテープ(梱包用ポリプロピレンテープ)の音が部屋に響く
ダンボールの表面に貼って、耐水性高め雨風に耐えるようにするためだ。
集合住宅に住み一番心配なのがベランダ側の窓ガラス。
停電、断水も困りものだがそれは避けようもない。
が、飛ばされてきたものが窓に当たり・・・というのはなんとか避けたい、いやできるだけのことはしておきたい。
TVでは養生テープを貼って割れたガラス片の飛散を防げ、とか放送・・・。
その情報、今更遅くないか? 今、ホームセンターに行ったところで手には入らないだろう。
割れたあとのことより、割れる前にできることをしておきたい、
一軒家なら雨戸がある、それを閉めればよい。
集合住宅のベランダに雨戸はない、
では段ボールでも貼っておくか、
となった。
怪しい風が吹き付ける中、やっつけ仕事でベランダ側のガラス表面に段ボールを貼り終え、各地の状況を報ずるTV中継に見入る。
あの五十鈴川の水位が、というTweetが流れはじめた頃から、嫌なニュースが方々から流れはじめる。
そんなタイミングで電話が入った。
もしもし?真坂様ですか? xxです。
ご存じかもしれませんが、xx川が危険水位に達したため当該自治体から避難勧告が出ました。
施設は指定区域内ではありませんが、理事長と相談した結果、万全を期して早めの避難をしようと決めました。
入所者全員、K病院隣接の建屋の方への避難を先程完了し、全員無事であること、ご報告させて頂きます。
有り難うございます。施設長ご自身、くれぐれも怪我のないようお気をつけ下さい。
骨折で運び込まれた救急病院からK病院に転院し、”その後”の母の行き場所をどうするのか悩んでいた際、
傘下の各介護施設の活動を知らせる月報から、今の施設が定期的に避難訓練や防災訓練をしているらしき事は知っていた。
以前から厚労省より 介護保険施設等における防災・避難訓練への取り組みについての指示が出されている事もあり、
何処の施設でも何らかの取り組みはされているのだろうが、具体的に「それらしきこと(=見ていたわけではないので)」が行われていた、
というのも今の施設にお世話になろうと決めた一つの要因でもある。
(なるほど、落ち着いて考えてみれば、
確かに、ホームの施設にとどまるより、病院施設の方が建屋が強固。どれほどの程度になるか計り知れない暴風雨にも耐えられる可能性が高い。
万が一、断水、あるいは停電、となっても、病院施設なら当座の供給不安はより少なくなる。
しかも、いざとなって日がどっぷり暮れてから高齢者を移動させるのは危険を伴う、避難するなら暗くなる前に、早めに、というのも至極適切な判断・・・)
東北大震災の時、
うちは大丈夫。海の近くではないから津波はないし、噴火するような山もないし、地震だってそんな大きいのはこれまでもないし。
その「私は大丈夫、ここは大丈夫」、っていう根拠のない自信が一番危険なんだな。
被災された方々が必ず口にしてるでしょ、”こんなこと今までなかった”、”まさかここで”って。
家の直下が震源地でなくとも、近隣地域で大きな地震が起きれば、交通網・供給網が遮断される、物がなくなって一番困るのは足腰に問題抱える高齢者なんだよ。
そして数百年前に地震の起きた場所で二度三度と繰り返し地震が起きる、というのもある。今現在休火山だっていつ活火山になるかわからない。
そんな会話が母との間であった。
みんなそうだ。もしかすると高齢者だけではないのかもしれない、
みんな「まさかそんなことはない」「私は、ここは大丈夫」・・・なんだ。
まさかという坂は何処にでもある、
どんなに非常食、水を備蓄しようが(それ自体は日本に生まれた以上Must事項だけど・・・)、
自然の猛威の前に人間は無力だ
・・・でも、
無力だと決め込んで「何もしない」
のではなく、
「できることはしておく」
しかないのだ。
その一方で、防災、災害、という点から見れば・・・
障害もつ方々含む社会的弱者の人達の一人住まいは
よりリスクが大きい、
そんな気がする。
メガトン級の台風が通り過ぎ光が差し始めた。
これからは、この手の台風が当たり前になるのかもしれない。
ベランダでガラス表面に貼ったあの段ボールを剥がしているところへ
施設から電話が入った。
真坂さんですか?
先程、皆さんと共に無事 施設に戻ってまいりました。ご安心下さい。