あの「お隣の男性」が部屋の入り口に顔を出し、
ちょっといいですか?
と部屋の中ににゆらゆらと入ってきた・・・
時刻的にはそろそろ帰る頃合いといったタイミング・・・
一方、直接その男性に入室をお断りするというのもはばかられる・・・
母にとっては貴重な話し相手、という側面があるからだ。
どうぞぉ、いつも話し相手になってくださりありがとうございます。
いえいえ、ここいいですか?
と備え付けの椅子を指差すお隣さん、足元はたどたどしく歩みはゆっくりとしているが歩行補助器は使っていない。
(多分に私の主観が入っているが)慣れた様子で椅子に座り込む。
お元気そうですね、おいくつになられるのですか?
82です・・・
(なるほど母より年下か・・・母にとっては姉さん風吹かせ 上からもの言える 与し易い話し相手、ということか。)
それはまだお若いですね、まだまだ10年以上元気でいけますね・・・
そうそう・・・
と、まんざらでもない表情でうんうんと頷くお隣さん・・・
(しかし、お年寄りは皆さん自信満々・・・俺はまだまだいける、という立ち位置なんだなぁ・・・歩き方を見る限り色々気をつける必要有りに見えるけど。
いや、逆にそう思うことで自分を鼓舞する、まだまだ頑張るぞ、と自らを勇気づけている、ということもあるのかも・・・)
お菓子でも出したいところだけど、この部屋には何もないんだよ。
まぁ、水ならあるよ、これ飲んでよ
と母がベッド脇テーブルにあるハーフボトルに入った水を勧める。
お客さん用のコップもないので、どうぞそのまま飲んでよ。
そう?それじゃぁ
と言われるがままに それを一口飲み、ゆっくりと蓋を締め、元の場所にボトルを戻す・・・
(・・・)
それじゃあ、1時間に1本のバスが出るので、私はそろそろ帰りますよ。
と言い残し、母の部屋を後にした。
ユニットの仕切りドア側にいた 先程の介護士さんに礼を言う
ありがとうございました。今度は本当に帰ります・・・
いいえぇ。
度々、部屋に入り込んでしまうんです・・・
大丈夫、とは思うんですが・・・
苦笑いでそれに応え私は施設を出た。
数時間後に帰宅し早々に施設長宛にメールを入れた。
本日おじゃましましたが、母はいつになく大風呂敷にまとめた荷物をベッドに乗せ、隣の男性の方と自室で談笑中でした。
人前となると一段と「ええかっこしい」の性格も相まってか、
「お隣のこの男性もこれから帰るんだってさ」
「反対隣のTさんも家に帰ったらしくてもういない」
と言っていました。
お隣の方の前では個人的な会話もできそうになかったので、
「それでは今日はこのくらいで」と10分ほどでそそくさと母の部屋を出て帰りかけたところ、介護士さんが状況を察して下さり、母の部屋から男性の方を呼び出し、母が一人になったところへ再び私が入り話をすることとなりました。
歯の具合、便秘の状況等質問してみましたが、当人から特段の訴えはありませんでした。
いつも通りの会話を繰り返す頃には「ええかっこしい」からいつもの状態に落ち着きを取り戻したところに、
(私が部屋のドアを開けたまま母と話していたこともあり)
またお隣の男性が「いいですか?」と慣れた様子で入ってこられ、
私の方も そろそろバスの時間ということもありましたので、
「これからも話し相手になってくださいね」と男性の方に挨拶し、母の部屋を出ました。
ところで・・・母も、よかったらどうぞと ベッド脇の台にある「ペットボトルの水」を勧め、男性の方もそれでは、とコップもないのでそれを口飲みし、元の場所に戻してしまうようです。
私が部屋にいた時点で、未開栓のボトルが1本、飲みかけのもの1本、でした。明日朝まだ同じ状態でしたら、お手数ですが 飲みかけの方はお隣の方が一旦口をつけたものでありますので廃棄して下さいますようお願いします。
なお、話し相手に事欠く母でありますから、その話し相手となって下さる方がいるというのは大変有り難いと思っております。
普段はどうなのかはわかりませんし、母は勿論 もしかすると相手の方もそこまで気を回す必要のないことなのかもしれませんが、意図的ではないにせよ ドアが閉まった部屋の中に高齢ではあれ男女がいつの間にやらいる、というのも他の方にはどう見えるのかな?という若干の不安を感じます。
数日後、施設長から頂いた連絡の中に この件についての返答があった
お母様はその後もお変わりはございません。
今日も、風呂敷に衣服をつめ 荷造りにいそしんでおいでです・・・。
お隣の方とは、お話相手として行ったり来たりしています。
御心配されるような事は無いと思ってはいますが、職員も見守りながら、良い関係づくりのお手助けをしています。