それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

読んでみた・・・「誰も書かなかった老人ホーム」 その①

「誰も書かなかった老人ホーム」

ただ、老人ホームの「選び方・探し方」が提示してある本ではないように私には見える。

(その必要に迫られた方の参考になる部分が無い、ということではありません。筆者はまえがきにこう記しています。有料老人Hに入居を検討している高齢者や、その家族の指南書として書き上げた、と。)

 

これは、いわゆる「中の人」が書いた本。

中の人から見た老人ホームとはいったい・・・老人Hという施設をどう思っているのだろうか?

そんな好奇心に応えてくれる本。

 

ただ、現在の筆者は「老人ホームの介護職員」ではなく、老人ホーム紹介業に携わっている。そこはあらかじめ念頭に置いておくべきなのでしょう。

 

 

老人Hには流派がある

f:id:masakahontoni:20190708190744j:plain著者が多用する独自の表現「流派」、これが言い得て妙。

「老人Hには多くの流派が存在している」という主張が、”外の人”の私にもなぜか抵抗感なくすっと入ってくる。

介護事業会社/組織の介護方針・理念、というより寧ろ「各々の施設(たとえ同事業会社傘下であっても)固有の」、多くの場合 管理責任者の考える「介護方針・理念」がそのまま「施設の介護スタイル」になっていく、というわけだ。

f:id:masakahontoni:20180906123454p:plain

 

(となれば、筆者の「思い」も一つの「流派」となるわけで、中の人といえども「その流派により」中からみた老人Hの姿も違う部分もあるのだろう・・・)

 

f:id:masakahontoni:20190704165259j:plain

介護方針は現場任せ、管理者は運営(収益管理)に特化・・・そんなHの場合、その施設の「流派」は看護師・介護主任の考え方に左右され、複数の「流派」が存在していたり、「流派」同士で権力争いまでもが生じている場合もある。

介護職員には、介護に対する各々の思い・考え・こだわりがあり、師事した先輩の「流派」を引き継いでいる。
経営者・H長・介護主任のリーダーシップが発揮されていないHだと、職員ごとにやり方が違い、入居者・家族が違和感を持つ原因ともなり得る。


口コミ情報は役立たない

  • 医療と違い、現場就労者には無資格者が多く存在する。けれども、無資格職員の方が能力が高いという現象も多々ある。
  • 老人Hの実態はほとんど知られていないので、百聞は一見に如かず。
  • とどのつまり、どちらのHが「入居者当人にとって」居心地がいいのか?、性に合っているのか?ということ。

「手厚い/手薄い介護」と「職員の配置人員」の関係
配置人数多→より手厚い介護・・・押しつけが横行しがち
配置人数小→手薄い介護・・・野放しが横行しがち


介護は誰にでも出来る、だからこそ難しい

介護は職員の感性・判断・人間性次第。資格無くても技術を身につけ入居者から支持される介護職員が多く存在。本質はその介護職員の「優しさ」によるところが大。

老人Hは病院と違い、病気を治すところではない。例えば、認知症でも安楽・安全・快適に暮らせるところ、それが老人H。医療的機能から見ると自宅にいることと何ら変わりがない。

 

 

老人H崩壊

元祖老人H、特別養護老人Hとは、高齢者のセーフティーネットの一つで、入居にx年待ちとも言われるが、地域によっては空室が多い。そして建物設備が民間業者運営施設より立派なものが多かった


ところが、近年 制度に振り回され、本来セーフティネットであるべき姿に変化が生じているという。

 

従来の特養は、多床室で、トイレは共同、食事・入浴は皆一緒に大食堂・大浴場、というスタイルが大半。だからこそ、低コスト運営が可能だった。

それに対し、新規開設の特養は、ユニットケア方式となり、個室、居室内洗面所/トイレ、ユニットごとに専属介護職員が配置される事で、 コストが上がり、結果として利用者負担が上昇している 

らしい。


・・・高齢者のセーフティーネットであるはずの特養が、民間企業運営の有料老人Hと変わりないor高額な特養という現象が起きているという。

 

筆者の主張:

特養は地域高齢者の最後の駆け込み寺で低料金運営であるべきで、そのサービスレベルが不満なら、民間の老人Hを考えるべき。そして各老人Hはそれぞれの役割を決め全うすべきなのに、そこが混沌としているから入居者が迷い、悪質業者がはびこる温床となっている。



介護付き有料老人Hとは、何か

一見、特養と概ね変わりない。

民間有料老人Hの中で、一定要件備え指定受けた場合に限り、特養に準じた扱いの”民間版特養”になる。

  • 自宅で訪問介護サービスを受けた場合: 1ヶ月の総介護報酬のうち1割or2割を個人が支払い、残りを国が支払う。
  • 特養・介護付き有料老人H: 総括介護方式・丸め介護方式。介護認定者が入居すると同時に、定められた月額区分限度額全額を受け取る。入居者はその介護報酬金額の1割or2割の自己負担分を特養・介護付き有料老人Hに支払う。

「相互扶助」という基本姿勢

介護保険制度とは、自分の権利を当たり前のように行使する制度ではなく、なるべく自分たちで解決し、どうしてもできないところだけ人の手を借りる、というもの。

 

住宅型有料老人Hとは、何か

入居者が受ける介護サービスの質や内容は、特養・介護付き有料老人Hと同じと言わざるを得ない。制度・基準の違いを運用力で補い、変わらない内容で運営しているHが多い。

  • 自宅にいるのと同じ形式なのが、住宅型有料老人H。
  • 包括方式・丸め方式に対し、単なる「訪問介護サービス」、つまり「出来高払い方式」で、サービスの提供の仕方が全く異なる。

が、多くの事業者は実質的に特養・介護付き有料老人Hと全く同じスキームを作っている。つまり、提供されるサービスは同じ、という現象が起きている。(後述)


事業者側から見ると、

  • 介護付き有料老人Hは、入居と同時に要介護度に準じた介護報酬を受け取ることができ、入居者数と要介護度で毎月の売り上げがほぼ確定する。
  • 住宅型有料老人Hは出来高払い方式で、併設の訪問介護事業所からの介護を実施しなければ介護報酬を得ることが出来ない

入居者の区分限度額を100%自社運営事業所のサービスで利用してもらう仕組みを作り、介護付き有料老人Hと変わらない性能を持ち合わせた住宅型有料老人Hが多く出現。

f:id:masakahontoni:20180906123454p:plain

 

(なるほど。うちも区分限度額100%利用だ。

ただ、入所前にそういうケアプランを組んでもらいたい旨、私の方からケアマネさんにお願いしたためでもある。

母の引き籠もり生活こそがその”症状/BPSD”を悪化させ、

遡れば、MCI→認知症発症という疾病の進行に影響を与えたに違いない、

そう感じていたから。

昼間はデイサービスできっちり、夜は自室でぐっすり、が理想、という私の思いを叶えてくれたケアマネさんには唯々感謝しかない。

確かに、全てのサービスを自社運営施設のもので、というのが事業者側の”理想”だろう。が、何処のどのサービスを利用するかの選択・決定権は利用者側にある。

利用者側が往々にして迷うのは、「では何処がどのようなサービス内容なのか」わからない、理解する手だてが無いから。

入所施設すぐそばにある系列老健でのデイを予定していたが、人気があり曜日により満員。近距離でなおかつ利用者の多い”現場の賑やかな”事業者の中からも選択することになった。結果、系列外の独立系事業者にも週の内二日お世話になっている。それでかえって良かったと今は思っている。)

 

筆者のオススメ:

  • できることは自分で行う入居者なら?

  介護付き有料→住宅型へ

  • 多くの介護支援サービスが必要な入居者(要介護3)なら?

  住居型→介護付き有料へ

  • わがままな入居者なら?

  介護付き有料→住宅型

 

介護保険制度とは、介護保険サービスを「すべて利用しない」のが前提だが・・・

事業者側の都合と保険者側(自治体)の都合

  • 事業者側は・・・要介護度の高い入居者に、自社提供の介護支援サービスを区分限度額100%使用してもらいたい。
  • 保険者側は・・・負担する介護保険報酬を少なくし、一方で利用者/地域住民の満足度は高めたい → 介護保険報酬負担が入居者事情で変動する住宅型老人Hの方が都合が良い。


サービス付き高齢者向け住宅とは、何か

  • サ高住のサービスとは、介護サービスに非ず。
  • サ高住が介護サービスを「売り」にしているのは、自立高齢者より要介護高齢者のほうが入居への誘導が容易く、儲かるから。住宅型有料老人Hとサ高住には総量規制無く自由に建てられる。さらに住宅型有料老人Hと比べた場合、サ高住の場合は補助金が支給される。

ではサ高住の「サービス」とは何なのか?

・・・

筆者の主張:

真のサ高住を普及させるに1番の注目点は、サ高住には生活相談員を常住させなければならないことにある。生活相談員を軽視し、ただそこにいるだけ、基準をクリヤしているだけ、といった配置で入居者の役に立っていないから、多くのサ高住が上手くいっていない。

 

 

その他の居住系高齢者施設「グループホームや小規模多機能型居宅介護」

 

  • グループホームは認知症高齢者の専門施設。入居者側の立場で考えれば、老人Hと大差ない。老人Hがホテルなら、グループホームは民宿・旅館
  • 小規模多機能型居宅は、訪問介護・通所介護・ショートステイを一つの事業所で提供するサービス。国の地域包括ケアシステムを推し進めるツールとして効果的な機能を持つ。=いつまでも在宅で、病院でなく、自宅で最後を・・・。重度化しても、先進的医療処置擁しない場合は、それを利用して自宅生活を継続していきましょう、ということ。

 

- その②へ続く -

(介護保険事業・制度の本質、入居ミスマッチが減らないのは何故か?、人手不足はいずれ解消する?、介護サービスは先祖返りする?、老人Hで好かれる人、嫌われる人、介護と「お金」の話)