それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

古びた写真 ②

 

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本棚で見つけた母の写真2枚。それを施設の母の部屋にあるコルクボードに貼ってみたらどうだろう?


昔のことを思い出すのだろうか? あるいは昔のことを話し始めるだろうか? そんなきっかけになるだろうか?

 

 

f:id:masakahontoni:20190613134106j:plainコルクボード用に紙製のフレームを用意し、実家から施設へ向かう途中のコンビニで例の写真2枚を並べてコピーした。

 

それを母がボードから取り去り、どこかへしまい込み、「誰かが盗った」となる・・・ことも想定し、写真原本は保管。

コピー用紙に複写したものを使う。流石に今時のコピー機、白黒のぼやけ加減、カラーのくすみ加減、そのまま忠実に複写。ありがとうセブン!

最寄駅構内にあるカフェにより、フォトフレームに複写したものを仕込み、施設に持参した。

 

最近は母が切り出す話に多少慣れてきたこともあり、今日はこんな話で・・・とあらかじめ会話内容を想定してから、母を訪ねるようにしている。

母の口癖の一つ、私もずいぶん歳をとって・・・ときたら、まずは、あの金さん銀さんの娘さんだって100歳近い、総理大臣だったあの人がもう101歳、といった具合だ。

今日は母の若かりし頃の話でもうかがいましょうかと、この日の面会に臨んだ。

果たして話は ”企んだ” 通りの展開となった。

 

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いやいや、母さん。歳をとった、もうxx歳だというが、昔金さん銀さんっていたでしょう?

 

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ああ、いたねぇ

 

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あの娘さんがもう100歳近いらしいよ

 

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へぇ〜そうなの!

 

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(故あって、娘さんそれぞれの詳細は話せないんだけどね・・・)

 

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そして、ほら、総理大臣だったxxさん、あの人だって100歳だよ


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あらっ、まぁ!

 

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正確に言えば、この5月で101歳だ。歳だ歳だと胸を張ってると、何言ってるんだ俺よりずっと下じゃないか、と言われるぞ。

 

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そうだねぇ。すごいねぇ。皆んな頑張ってるんだねぇ。まぁ、あの人は昔からがっしりしていたからねぇ。

 

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昔の人の方が丈夫だったかもしれないね。今は好きなものを電話すれば持ってきてくれる。だから皆、好きなものばかり食べている。甘いものとか、お菓子とか。そんなわけで検査してみると栄養失調状態の高齢者が多いらしいよ、今は。

 

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なるほどねぇ。

 

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昔の人の方が、生きる為に動いたり、食べたりしていたから、むしろ骨太で丈夫だったかもね。家でゴロゴロしてたら何も食べれなかった時代でしょう?外に出て野良仕事をすれば体も維持出来る・・・

 

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確かにねぇ

 

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まぁ、歳をとったのは確かだけれど、上には上がいますよ、ということだよ。ご飯は3食べてる?

 

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あぁ、残さずしっかり食べてるよ。

 

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それは大したもんだ。バランスよくしっかり食る、ってことが大切だからね。

 

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(あとは、毎日デイに行ってしっかり心身ともに刺激を受けて、疲れたら夜はぐっすり眠る、これだよ)

 

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歳だ歳だ、とよく言うので、ほら、この前みたいと言っていた写真、家の中から出てきたやつ。あれをもってきたよ。いつぐらいに撮ったものか、覚えてる?

 

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あれ、まぁ、これは、ずいぶん若いねぇ。

う~ん、いつ頃かねぇ・・・白黒のは二十歳前後じゃないかな。カラーのは全くわからないねぇ、二十代かなぁ。

 

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(いや、二十代はないでしょう・・・この私が見ても)

 

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私が若い頃はね、男は男同士、女は女で電車に乗っていたんだけどね、男性はやっぱり女性が気になって声をかけてくるんだよ。

私も色々声をかけられたけど、その頃は奥手だったからねぇ。別になんとも思わず相手にもしなかったよ。

 

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(いや、いや、まさかの”私はモテました”話か・・・?)

 

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それはすごいね。

 

f:id:masakahontoni:20190613185408j:plainこの「私はモテました」話を皮切りに、母は 自らの育った環境、親兄弟のこと、家業のこと・・・等々を所々に自慢話をちりばめつつ ”繰り返し” 話し続けた。

思い返せば、私は母のそのような性格がとても嫌だった。

今でも過去の自慢話をする人との付き合いには積極的になれないし、仕事上では尚更のこと、過去の栄光ばかり話す人を信頼することはない。

それが嘘だ本当だ、と言いたいのではない。

それは過去の話に過ぎない、ということで、過去の話をされてもね、という思いからだ。今はどうなの?明日は?という土俵での対話ができる方でないとちょっと・・・というのが自らの性分なのだ、と思っている。

 

それがどうしたことだろう。

慣れてしまったからなのか、気づかぬうちにあっさり割り切ってしまったのか・・・。

 

ただ、今更ながら気がついたこと、

それは土俵の違いだ。

 

言葉滑らかに昔の話をするとき、

そして自慢話をそこかしこにちりばめているとき、

母は生き生きとし、

我が意を得たりといった表情を見せている。

 

f:id:masakahontoni:20190613185437j:plainそう、母の土俵はその「昔」であり、

「今」ではないのだ。

 

母は「昔」に生きているのだ。

 

正に、生きている、という実感に満ちているが故の生き生きとした表情なのだ。

 

母の表情を見ながらそう実感した。

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