それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

道すがら・・・その①

薄着のせいもあってか吹き下ろす風がひんやりする、そんな日だった。

薄着過ぎたことを後悔しつつも なんとか実家へたどり着き、いつもの様に換気、通水、そして庭の草むしり。

f:id:masakahontoni:20190604182134j:plainここのところの天気で雑草がすくすくと育っている。ここらでいっぺんむしっておかないと根が太ってしまってからでは大変だ。

相応の器具は用意したが慣れぬせいか捗らない。腰が痛くなる前にきりあげた。

 

実家のメンテの後は母の見舞いだ。

礼の時間に1本のバスに乗り込む。相変わらず乗客は数える程しかいない。

f:id:masakahontoni:20190604184850j:plain最寄りのバス停では、珍しく私に続いて後から降りた方が一人いた。

交差点の信号待ちで振り返ってみた。距離が離れてはいたが、ある程度高齢の女性のようにも見える。

それ以上振り返ることもなく私はスタスタと住宅街の路地を歩く。

K病院に見舞いに行く方かな、とも思ったが、そうではなかったようだ。

 

施設を訪れる前、私はいつもK病院に寄る。

受付にある月報や各施設や病院便り・月報の類に目を通すためだ。そこにはグループ内の老健、老人ホーム、グループホーム等各施設のイベントの様子や活動報告が写真付きで載っており、時として参考になるようなことが記されている。

A施設で母の入所する1カ月ほど前に避難訓練をしたことも、施設紹介の月報から知ったこと。意外と「へぇ~そうなんだ」というような情報も見つかったりもする。

 

その後 病院の敷地内を通り抜け、道挟んで向こうのA施設へ。介護士さん達に挨拶し母の部屋へ向かう。

介護士さんが引き戸を開けた向こうに母の姿が見える。

チェストの引き出しを開け何やら作業中の母が、介護士さんに声をかけられこちらを向く。

私は手を振り近づきながら母の表情を伺い、周辺をそれとなく見回す。一瞬で何をしていたのかが見て取れた。

今日も母は荷物をまとめていた。もう帰る準備、というわけだ。

またか・・・と内心気落ちはするが、そんな素振りを見せることなくぶっきらぼうに聞く。

 

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どう調子は?

 

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あれ、どこから来たの。

 

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どこからって、もちろん家からさ。新幹線に乗ってね。

 

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そうなの。私もさ、もう帰ろうかなと言ったのに、ここの人がせっかく来たんだから泊まっていったらというので泊まったけど・・・

 

などと言いながら、パンパンに膨らんだ小脇の(デイサービス用にと揃えた)バッグに手を伸ばし、

 

 

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私もすっかり歳とっちゃって・・・もうどうしようもない・・・

 

と独り言ともつかぬことを発し始める母。

 

疑いもなく「そちらの方向へ」話題が行きそうなるのを、必殺「話題変え」の術で応戦する。

 

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それはそうと、グラグラしていた歯はどうなった?

 

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特に変わらないね。

 

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未だ抜けないの?長いね?もう取れそうだと聞いていたけど・・・

 

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そうなんだよ。

 

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歯といえば、人ごとでなく自分の歯もこれからは定期検診した方がいいと思い立ってね。気がついたら歯周病で歯が抜けた、とはなりたくないからね。それで先日歯医者へ行ったんだよ。

まぁ、歯茎も見たところ問題ないし歯周病の方は大丈夫と言われたけど・・・あなた歯が欠けてますよ、と言われたよ

見てみますかと言われ手鏡をのぞいたけれど、そう言われれば奥歯の角のところが欠けているようないないような・・・このままにしておいたらまずいですか、と聞いたら・・・

 

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そこが弱くなっているからねぇ

 

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そうそう、そこから虫歯になる可能性もある、と。どうしますか?と。
どうしますか、と言われても・・・仕方がないのでそれでは詰めてくださいと。
次に来る頃には、部分的に金歯になっているよ。

 

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(さて、次の話題は何にするかな・・・)

 

f:id:masakahontoni:20190604184340j:plain部屋入って直ぐの壁にあるコルクボードに習字が貼ってあるのを指差し(先日 施設長とのメール交換で、デイサービスで習字があり母が持ち帰ったものを皆でなかなか上手ですねと言うと、安物の筆だったのでうまく書けなかった、と応えていた、というエピソードを聞いていた)、

 

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何あれ、母さんが書いたの?うまいじゃないか!

 

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そお?書きたいと思ってもいないのに、書け書けと言うから仕方なく書いたんだよ。

 

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でも、習字をするなんて久しぶりでしょう? それでここまで書けるとは大したもんだね。

 

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そうかね? そういえば昔は・・・

 

と、ここから母の昔話につながることになり、私は内心ホッとした。

 

f:id:masakahontoni:20190605143412j:plain(認知症で)近いことは忘れても(あるいは記憶できなくても)、昔のことは長く記憶に残り続ける、とはよく言われることだが、まさにその通り、自らの若かりし頃のことを事細かに饒舌に話す母。

よどみなく話し続けることがまんざらでもない(=あれなんだっけな、と言いよどむこともない)せいか、表情は生き生きとしている。

kaigo.homes.co.jp

 

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(やはり昔話がいいのかな・・・)

 

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そう言えば、母さんの若かりし頃の写真が二、三枚出てきたよ。

 

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へぇ〜、そうなの・・・

 

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今度持ってこようか?

 

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そうだね、見てみたいね。

 

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(おっ、見たいんだ・・・)

 

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よく、姉さんのHさんのことを口にするけど、たくさん兄弟がいた中で一番仲がよかったのかな?

 

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そういうわけじゃないんだけど、一番年が近かったせいかな・・・

 

母の昔話が堰を切ったように続く・・・時間を持て余すこともなく予定していた滞在時間を過ごし、おきまりの「1時間に1本のバスがそろそろ来るので・・・」と告げ、私は施設を後にした。

 

道すがら・・・その②へつづく