それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

ホップ・・・ステップ・・・そして (入所当日)②

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(困るな・・・この状況は。益々一人考え込むようなことになってしまう・・・。)

 

それは、母が一人悶々するに十分な周辺環境。

しかも時間は午後から夕方に向かう時間帯。

それは、母の集中力がさらに衰えて行く時間帯。

 

f:id:masakahontoni:20190522161211j:plain昼食後に服用する薬を介護士さんがコップに入れた水とともに持ってきた。

20代らしき男性だが母とは初対面のせいか今ひとつ覇気がない。

それでも錠剤を一つ一つ取り出し母の手のひらに乗せてくれ、それを飲んだのを確かめ、粉末状のものは袋を開けてから手渡してくれる。

その袋の横にツムラの文字が見えた・・・抑肝散だろう。

なるほど、昼食時には処方されているのか。

服用を続けると効き目が弱くなるということもあるのかな、などと余計なことが頭に浮かんでくるが、それどころではない。

 

案の定、数十分が経過する間に母の私への一つ一つの質問(といっても同じ質問)の間隔が徐々に狭まってくる・・・母の集中力が衰えてきた時の症状だ。

これ以上この場にとどまること自体に”危うさ”を感じ、私自身帰る時間を意識し始めるが、このがらんとした中に母を置き去りにするわけにもいかない。

 

いつ止まるともわからぬメリーゴーランドに耐えること更に小一時間・・・

ようやく、一人二人と他の入居者が戻ってくる。

 

A施設ではデイサービス事業所(部屋)が併設されている(認知症対応型デイサービス)。多分そちらに参加されていた方々だろう。

前回見学した印象では、認知症の程度は母より重いようにお見受けした・・・言葉をあまり発せず静かな方々多く、母の話し相手となってくださるには少々難しさがあるように見える。

周辺が賑やかになれば、本人も気を散らす対象が増えるのだろうが、話し相手となる対象が私だけでは・・・

 

 時間の経過とともに日が傾き、バスの時間が30分ほど後に迫ったところで、もうそろそろこのあたりで踏ん切りをつけようと判断し、


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では、今日はそろそろ帰るよ

 

と母に告げた。

 

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ここに泊まっていけばいいのに。


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おいおい、私が泊まってどうする。旅館じゃないよw。


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私はどこへ帰るんだい?


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母さんは、ここでゆっくり休むんだよ。


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私はいつ帰るんだい?


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それを今聞かれても・・・ここにきて未だ何時間も経っていないのに・・・。

ここで療養しながらデイサービスに通い、頑張ることで筋力や能力が維持されて、より普通の生活状態へ復帰できるようにするのでしょう?今のままでは入院で足腰が弱っているからまた転倒してしまう危険が大きいんだよ。

 

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私はもう大丈夫だと思うけど。

 

f:id:masakahontoni:20190522162852j:plain徐々に雰囲気に暗雲が立ち込めてくる。

日の陰りより早く、母と私の向かい合うテーブル周りが暗闇に包まれそうな雰囲気になってきた・・・

 

そこへ施設長が割って入ってきた。

眺めていて見かねたのだろう。

 

f:id:masakahontoni:20190503183506j:plainさあ、息子さんもそろそろ帰るんですって。

 

 

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あなたは、話を逸らさないで頂戴!

 


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いずれにせよ、もう帰るよ。また日曜日にくるよ。

 

 

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私は?

 

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これから一緒に新幹線に乗って帰るわけにもいかないでしょう?

 

 

f:id:masakahontoni:20190503183506j:plainまた、日曜日に来るんですって。よかったわねぇ。いい息子さんねぇ。

 

 

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もう騙されないぞ!

 

 

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何をどう騙すのかな?
まぁ、いいや。日が暮れるので帰ります。

 

と立ち上がり玄関へ向かう。

 

f:id:masakahontoni:20190503183506j:plainそれでは玄関までお見送りしましょうねぇ。

 

 

と施設長が歩行補助器とともに辿々しく歩く母の隣に添いながら共に玄関に向かう。

 

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雨だ。

 

f:id:masakahontoni:20190503183506j:plainあら、雨ですね。傘ありますよ、お貸ししましょうか?

 


f:id:masakahontoni:20180823154054p:plain大丈夫です。手持ちの傘がありますので。

ではこちらで失礼します。色々すみませんが、よろしくお願いします。

 

”色々すみませんが” に思いを乗せて挨拶した。

 

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一旦この場に区切りをつけるように玄関の自動ドアが閉まる。

背中越しに、母を取りなす施設長の声が聞こえてくる。

 

f:id:masakahontoni:20190503183506j:plain傘はお持ちなんですって、準備きちんとされてるようですよ、しっかりしてますねぇ。

 

f:id:masakahontoni:20190522163536j:plain軒下で折り畳み傘を広げ、ポツポツと降る雨の中を歩きだす、振り返ると玄関のガラスの向こうに、施設長に導かれ部屋に戻る母の背中が見えた。

 

暑くなったと思えば、寒くなり、今度は雨だ。

世は”こんにちは令和”で盛り上がっているという。

まるで別世界のお話のようにしか受け取れない。

私には、何一つ変わることなく 只々 時間がゆっくり経過しているようにしか感じない。

 

f:id:masakahontoni:20190522163816j:plain認知症の人は環境の変化にとても敏感、と人は言う。

どんなにその変化を最小化しようとしたところで、それは針の穴に糸を通すような試みだ。

環境の変化・・・それ以外の変化を ことごとく最小限に抑えることなど・・・思い通りにすることなど、それは無理というものだ。

雨の中を走るバスに揺られながらそう思った。

 

入所を目前に控え より慎重にならねばいけないタイミングで、気の合った話し相手が退院し、歯がぐらつき抜歯云々で歯科医・看護師ともめ、術後の患部の感染症で傷口を切開、となぜ次々と「糸を通す」のに障害となるような事が起きるのか・・・全ては偶然なのだろうか?

 

私はひどく憂鬱な気分に陥った。

 


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(↑ナポレオンがホップ→ステップと来るも、英国ドーバーの地にはジャンプできなかった、という風刺画