それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

転院先に到着 ①

K病院はS病院からさほど離れていない。それでも交通量の多い幹線道路でなく住宅街をゆっくりと介護タクシーは走っていく。15分程走ったろうか、K病院に到着。

「どうぞお先に受付の方を済ませて下さい」

と言われ、後をお任せして私は受付へ。

受付で、今日入院の真坂です、と伝えると、すぐに担当の看護師、そしてあの相談員の方が現れる。

介護タクシーのドライバーさんが車椅子に乗せた母を連れて入ってくる。

 

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こんにちは~。XXです。よろしくお願いしますね。

車椅子の母を笑顔で出迎え かわるがわる挨拶。

 

この辺りの対応が(今思えば)他院とは一味違う。前回骨折時に転院した中堅規模の病院では、(病院として)一般的/事務的なものだった(それに対してなんら不満はありません)。これは病院というよりは施設的対応なのかな・・・そんな気がする。

私は受付で入院手続き、母はそのまま病室へ。

S病院からの引継ぎ書、残った薬、保険証、介護保険証、他準備した必要書類を提出・提示、その後私も病室へ向かう。

 

途中食堂があり数十人のお年寄りが席についていた。席について、といっても多くは、車椅子のまま、という方が多いように見える。そして女性が圧倒的に多い(数えたわけではない)。女性の年齢を推察するのは苦手だが、見たところ若くても80台、そして母よりは上ではないかとおぼしき方多数(安倍晋三氏がかけ声あげずとも、ここはとうの昔に女性中心社会のようだ・・・)。

痩せている方が多い。推測にすぎないが、(軽度の)認知症らしき雰囲気がその表情からうかがえる方もいる。

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初めてK病院を訪れたときの院内見学で、食事はベッドではなく、食堂で皆集まって、と聞いていた。

それもリハビリの一貫なのかもしれないし、その方が母には刺激になるはずだ。もちろん、病院側にとっても限られた人員での配膳は難しいという側面もあるのだろう。

その中の何人かがこちらをじっと見ている。目があう。

いかにも、見かけない人がいる、誰だろう、といった表情。

私は口元にそれとなく笑みを浮かべ軽く会釈をしながらそこを通り過ぎた、まるで皇族方がそこを通過するがごとく。

私は内心戸惑っていた。

f:id:masakahontoni:20190315125730j:plain皆さんこんにちは! と突然言うわけにもいかない・・・”お手ふり”もちょっと(いや、かなり)おかしい・・・。(性格的には その手のおちゃらけが嫌いではない)

こんな時、私をじっと見ているおばあちゃん側からすれば、どうされるのが一番”いい”のだろう。やぁ!と言われた方がいいのかな、しれっと通り過ぎた方がいいのかな、吉本新喜劇よろしくここでこけたら笑ってくれるのかな・・・。

私にすれば、じっと注目されるより、ニコッとされる方が何倍も心安らぐのだけれど。

少々緊張しながらその場を通り過ぎた。

 

母が運び込まれたのはナースセンターに一番近い3人部屋の窓際のベッド。とりあえずはスタッフに一番近いところで見守る、ということなのかもしれない。

のこり二つのベッドには誰もいない。多分、先ほどの食堂にいるのだろう。

横たわる母の枕元には既に医師がついており、何やら話をしている。体調、患部の様子など聞いている声が聞こえる。入ってきた私と挨拶しながら、

 

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こちらではリハビリしながら回復を目標に過ごしていただくことになりますが、一人で無理に動いたり、歩き回ったりすると転倒してしまう危険がありますので、必ず看護師をナースコールなどで呼ぶようにしてくださいね。

と念押しするように母に確認。

 

こういう時は「ええかっこしい」の本領発揮で

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はい、よくわかりました。

と優等生的返答。

 

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それでは後ほどまたお話しさせていただきます。

と私に言い置いて医師は病室を出て行った。

 

すると看護師が、

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真坂さん!ちょうど今 お昼ご飯の時間ですから、せっかくなので、真坂さんもいかがですか?

と声をかける。

 

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そうですか?それでは。

と一旦了解するも、一息ついて安心したのかトイレに行きたいと言う。

 

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いままではどうしていたの?

と母に尋ねる看護師さん。

 

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直近の状態ですと、おしめで、そのままベッドの中で用を足していたようです。

 

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そうですか。真坂さん、どう?立てる?車椅子でトイレまで行ってみる?

 

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そうね。

 

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じゃぁ、この車椅子に乗りましょう。

看護師さんの介助で本日”2度目”の車椅子。それに乗り込み病室を出て行った。

 

まもなく看護師さんだけが病室に戻り

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チューブはいつ頃までつけていたのですか?

 

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はっきりしませんが、数日前のY日見舞いに行った時にはチューブでなくおしめで済ませるようになっていました。

 

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そうですか。今、おトイレに行きましたけど問題ありませんでした。大丈夫そうですね。今は食堂に移動してお昼を食べていただいています。

この後、医師を交えてお話をさせていただくことになります。その前にお母様のことについて伺わせてください。お母様の持病とか、そして性格・趣味・好きなこととか教えて頂けますか?


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う〜ん、そうですね・・・だいぶ前でしたら、縫い物、編み物といったことが好きだったようです。昔は推理小説など本を読むことも多かったのですが、多分認知症の影響もあるのでしょうが登場人物がわからなくなるとか、文字が小さいとか、集中できないとか、多分そういうことなのでしょう。最近は本もTVのミステリーものも あまり見ることは無いようです。

草花を育てるのが以前から好きで、今でも庭にいくつか植えて楽しんでいます。性格は、結構プライドが高いと思いますし、人によく見られたい、という気持ちも強いと思います、多かれ少なかれ皆さんそうかもしれませんが。

持病については・・・胃腸があまり強い方ではありません。元々便秘気味のことも多く、ここ数年は逆流性食道炎の気があり時折胃がむかついてかかりつけ医で薬をもらっていたようです。昨年夏頃、はきだした唾に血が混じっていたのを見て気が動転し、かかりつけ医を家に呼び寄せ 結局救急車を呼び搬送先の胃カメラ検査で食道に炎症が見られると診断されタケキャップという薬を処方され家に帰される、ということがありました。

www.min-iren.gr.jp

それと、先ほどS病院を退院する際に看護師さんから「血圧が高めに出ていますが特にそのためのお薬は服用していない状態。その点、K病院さんの方で対応されると思うがちょっと気になったので」とアドバイス頂きました。

 

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そうですか・・・あと、今日お持ちいただいたものをチェックさせて下さい。

 

と、手元の用紙にメモをとりつつ、パジャマ、タオルに始まり、あらゆる小物、そして母のバッグの中(といっても、もはや母のバッグにはティッシュと筆記具しか残っていない)に至るまで持ち込んだものを一つ一つ調べる。

そんな看護師さんの姿を見ながら、ああ、この人は認知症の見守りに慣れてらっしゃるな、と私は思った。

母の趣味や好きなことを聞いたのは、話のきっかけを作るためだろう。認知症の人が不安を口にしたり興奮気味な時、あるいはそうで無い時ももちろん、「そういった話題」を糸口に機嫌をとったり交流の展開を図ろうとするのだろう。

そして、あれは何処にいった、これは何なの、は認知症の人のあるあるなので、あったものとなかったものを前もって知っておく、管理しておくというのも大切なことなのだろう。

S病院での「部分入れ歯紛失騒動」、あれはそもそもあったものが見つからないケースだった(結局、母のバッグの中にあった)が、初めからなかった物が見つからない・なくなったと騒がれるケースも十分あり得る話だ。

認知症の症状を持つ入院患者の持ち物チエックは、基本のキなのかもしれない。

 

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