それ 認知症かも

認知力の衰えを頑なに否定する年老いた母。それを反面教師に自らのこれからを考える息子。

想定内と想定外 @転院

ーーーK病院へ転院当日ーーー

駅前からバスに乗り、予定より早めに病院着。バタバタする前にあらかじめ入院費を精算しておこうと思った。

すぐに受付窓口へ行き、「今日転院予定の真坂ですが精算は?」と聞くと、今準備中で後ほどナースセンターの方へ届くという。その書類をもって受付の自動精算機で処理して欲しい、と。

これは想定外。

準備も何も、ボタン一発ではないのか、と思わなくもないが、朝から四の五の言う程のことでもない。かしこまりましたと、例によって1階にある売店で”挽き立てコーヒー”を飲み一息つく。

K病院から指示されていた、パジャマ3着を購入しそれを抱え整形外科フロアーへ。

念のためナースセンターで、請求書はあがっていますか?と尋ねたが、やはり、もう少しかかる、とつれない応え。では、病室の方で準備をしています、と言い置いて母のベッドへ向かう。

いつものようにベッドに横たわったままの母に、さあ、今日は転院だね、と告げる私に不機嫌そうな表情で

 

「今日転院なんて初めて知った」

と言う母。

 

この反応は想定内。こうなるものと、あらかじめ手は打ってある。

 

「いや、初めてではないよ。この前見舞い時にその話をしたよ。その時メモも残しておいたよ。」

と、例の赤い大判ノートを開き、その中にあるカレンダーの今日の箇所を指差す。

 

そこには

10:30頃 K病院に転院予定

と記してある。この日このようなことになるだろうと先回りして前回の見舞い時に私が母の前で書き置いたものだ。

 

f:id:masakahontoni:20190314111508j:plain「あれ、ほんとうだ・・・」

 

「ね、そうでしょ?まだ朝で頭の中が完全に起きていないから思い出せないんだよ。」

 

母の不機嫌そうな表情が確かに和らいだ(=安心した?)のが見て取れる。

 

”いつもの”とりとめのない話を母と続けながら荷物まとめ開始。


母が口にするのは例によって例のごとく、「お父さん」と「お姉さん(Hさん)」の話題。

私の受け答えも、変わらず、

 

「父さんは60代半ばでもう亡くなってるよ。母さんも毎朝おりんを鳴らして仏壇を拝んでいたでしょう?Hさんももういない。兄妹の中で私が一番長生きだ、私一人になったと、自分で言ってたじゃない。」

 

「そうだったかね?なんかいるような気がするんだよ。」

 

「昼はしっかり起きて夜はしっかり寝る。そういう生活をしていないから、夢であったことと現実が混ざってしまうんだよ。今朝も会ったばかりの時、母さんはトロンとした目をしていたよ。こうやって話しているうちに目つきがはっきりしてきたのがわかるよ。《←これは本当の話》」

 

「いやぁ、わたしもどうしちゃったのかねぇ・・・。」

 

忘れてしまう、と言うよりは、新しいことを覚えることができない、母はまさにそういう状態なのだ。

そういう「障害」のある状態の人に

なんだ、この前言ったばかりじゃないか!しっかりしてくれよ、何ボケてんだよ。
なんて言ってはいけないのだ。

いや、そもそも、言う意味がないのだ。忘れた、以前の問題なのだから。

忘れる、とは一旦覚えたことが前提だが、そもそも覚えることが難しい・・・そういう「障害」なんだと徐々に思えるようになってきた。

慣れ、なのか・・・不思議なものだ。

前回見舞い時、余りに髪がボサボサなので(ベッド上での生活なので鏡を見ることもない)、売店で買ったワッチ帽を渡すと、これはいい~と喜んでいた母。

この日もボサボサ髪でいるのを見て、転院先で笑われないようにあの帽子をかぶったほうがいいという私に、

 

「なんでHさんはこれを持ってきたのかねぇ。」

と応える母。

 

誰がもってきたのかはわからない・覚えていない、そういうものは全て、Hさんが~となるのかもしれない。

 

不要の荷物は前回見舞いの際、全て実家へ運び出していたので、ショッピングバッグぐらいで大丈夫かと思いきや、K病院で指示されたパジャマ、バスタオル、他を買い込んだこともあり結構な量に。

K病院に指示されたごとく、パジャマの上下に名前をマジックで書いておくよう母にお願いし、その間に精算を済ませてしまおうと病室を後にする。


ナースセンターに行き、できたてホヤホヤの請求書をもって1階へ。1階受付で聞くと、渡された紙片にあるバーコードを向こうの自動精算機で読み込んで手続きをしてください、と。

指示通り自動支払機にバーコードをかざすと金額が表示される。10万を超える金額に少々ドキッとする。まさに手持ちの現金と同じような金額。

頭の中で帰りの新幹線代含む交通費を計算、まだ多少余裕があるとわかりほっとする。いざとなればクレジット払いという手段もあるが、あとが面倒。母にかかわる出金、領収書の類はシンプルにアナログ仕分けしておきたいので。

f:id:masakahontoni:20190313174426j:plain支払機の吸い込み口に-”秒で”-吸い込まれる十うん万円、月をまたぎはしたがほぼ1ヶ月お世話になった締めにしてはあまりにあっけない。

後期高齢者の高額医療費控除を受け、幾分かの還付金が後から母の口座に振り込まれるとはいえ、1割負担の後期高齢者でこの負担(一時)だ。属する区分次第でさらに費用はかさむのだろう。

若ければさほど入院する必要もないが、六十を超えある程度の年齢になったら、骨折などしてはいけない。もちろん一番大きな問題は、それがその後の人生に関わるトリガー(引き金)になることが多いからだが、費用という欲しくもないおまけ付きという側面もある。

と、ここで明細はいるか?

f:id:masakahontoni:20190314112916j:plain

と問われた私は、当然のように”発行する”を選択・・・この直後何が起こるかは知るよしもなかった・・・。

お札の吸い込みはまとめて”秒で”やってのけた精算機、明細の吐き出しは1枚ずつという仕組みのようだ。なんともちゃっかりしている。

十数枚に渡る明細書が一枚一枚、プリントアウトされるのを待つ間、いつしか私の後ろには精算待ちの行列ができることとなった。

 

運悪く私の後に並んだ方々には申し訳なかったが、 私にとってそれらは単なる明細ではなく、日々どのような治療が行われ、投薬がされたかが事細かに記載されている記録でもある。 そう、その明細書でどうしても確認しておきたかったことがあった。

それは・・・

www.masakahontoni.com

↑この中の、以下の部分・・・

f:id:masakahontoni:20190212151157j:plain

 

大丈夫ですよ。ちょっとした漢方など合わせて処方し飲ませてありますが。


(あれ以後、病院から私宛電話がかかることなく、病院側の何らかの処方が有効だった可能性もある。ふと、抑肝散かな?という思いが浮かんだが根拠はない。病院側の処方した何らかの薬剤で、母のあの厄介な夕暮れ症候群が沈静化しているのだとすれば、あくまでも仮定だが、事程左様に認知症診療を受けずに過ごし続けたことの弊害はあまりにも大きい。最初の骨折でお世話になったT病院退院後すぐのあの物忘れ外来へ行く行かない騒動。あれが最終分岐点だったと今でも思っているが、認知症発症後とくに最近のBPSDについて、何らかの薬剤処方する事で緩和できた可能性は大きい。)

 そう、まがいなりにも母を落ち着かせるのに、 -あの夕暮れ症候群、あのストーカーのような夜な夜なの電話、S病院搬送後すぐに家へ帰りたいと言い出し看護師さんを慌てさせた、それら認知症のBPSDと思われる症状- を抑えるのに、S病院がどんな薬を使ったのか知っておきたかった。

明細書を一覧して、注目したのは2種の薬剤。抑肝散とトラゾドン(前者は漢方薬)。

抑肝散についてはやはり、という思いだが、トラゾドンは初耳だ。

  • 抑肝散

medical.nikkeibp.co.jp

  • トラゾドン

ja.wikipedia.org

 

専門家でない私が想像しすぎるのも逆に問題だと思うし、当然万人に効く薬などないわけで、母に効いたから誰にでも効く、あるいはその逆、等ということもないはず。一方、副作用のない薬はない、ので、当然どの薬を処方するかは医師の専権事項だ。 

ただ、トラゾドンは検索する限りにおいて色々副作用ありそうな薬剤のように見える。

母に処方された(と思われる)これらの薬剤については、K病院転院後の医師との面談時に(今から思えば)さらなるちょっとしたヒントからうかがい知れた部分があったので、その点については後述します。

 

精算を終え母の元に戻ると、看護師さんがこれも持っていけ、これもどうぞ、と余った、おしめ、靴下、歯ブラシ、ティッシュボックスと荷物がさらに膨らんだ。

f:id:masakahontoni:20190313175440j:plainK病院への移動は、S病院が手配してくれた「介護タクシー」。女性ドライバーが備え付けの車椅子で病室まで迎えにきてくれる。

ドライバーの性別を書き留めることに違和感を感じないでもないが、母には女性の方が、人当たりも良く、聞こえてくる声も優しく、また、そもそも同性の方が初対面での安心感も大きいという利点もある。

ベッドから車椅子に移るのに看護師さんが手を貸した以外、タクシーに乗り込むまですべてドライバーさんが行ってくれる。なんとも有難い。これを自家用車で、自ら自分で、となったらとてもとても・・・スムーズになどいくはずがない。