ところで、12/2の週”慣”ご機嫌伺いでの母との会話;
~それと日記の話で思い出したけど、そういえば父さんの万年筆ってまだそのまままだ保管してあるのかな?
ああ、居間の引き出しにあるよ。父さんは色々書き物をするのが好きだったからねぇ・・・。
~年末に帰るかもしれないよ。その時に万年筆をもらおうかな。いつ帰るかはまた後で連絡するよ。
今回帰省の際、早速母に聞いてみた。「あぁ」と居間の引き出しを開けた母、そこにごろごろと父の使っていた筆記具があった。いくつかある万年筆を物色しているとどこか見たような風体のものが目についた。目をこらしよく見ると軸の帯部にSailer とある。ほぼ同じ種類のものを1本 私ももっている、なるほど”どこかで見たような風体”だったわけだ。
面白い一致だな、と、それを見つけたのは偶然でないような思いに駆られ、その1本をもらうことにした。
自宅に戻り手持ちのペンと比べてみる。父がいつそれを入手したのは定かでないが、いずれにせよ数十年前だろう。
所々デザインが違う(左が今回持ち帰ったもの)。ペン先の刻印も旧モデルの方がシンプル。字幅は父のものがM(中字)、私のものはEF(極細)。
新年から5年日記をつけることにしているが、A6サイズの日記に字幅Mのペンを使うことはないだろう。果たしてこのペンの出番が来るのかはわからない。
- 構内の簡素な喫茶店 -
妹と私は最寄り駅でタクシーを降り、そこに入った。
以前股関節が悪いと言っていたが、ここのところ落ち着いているという。
正直、母さんのことは心配は心配だけど。ではどうするのか、というと余り打つ手がない状態。逆に、やりようがまだある、という点で言えば、あなたの方が心配だね。股関節の方は今は落ち着いていると言ってたけど、その歳ならまだまだとれる策はあると思うよ。
いやぁ、どうかなぁ・・・
いやいや、母さんはもうあの歳だし、しかもあの性格、それに比べれば。やりようはいくらでもあると思うよ。
う~ん・・・この前も通勤時に意識失って倒れたし。
えぇ!?
勿論覚えてないけど、その時後頭部をかなり打ったみたいで。その日そのまま通勤したけどどうにも頭痛が激しくて、人生初めて脳神経科でスキャンしてもらった。特に異常はない、と言われたけど。
スキャンなら昔頭痛で検査してもらったことあるよ。
頭痛?目の裏側の方の頭痛だと問題なんだよ。大丈夫だったの?
まぁ何ともなかったけどね。あなた、元々血圧低かったでしょ?倒れたのは、貧血云々と関係あるのかな、血液検査等どうだった?
この体だと定期検診では足りないので、毎年人間ドックでチェックしてる。血液検査は・・・この歳になると、もう、高血圧気味かな・・・。兄さんは運動とかしてるんでしょ? 長生きしそうだよね。
(ん?どういう意味かな・・・素直に解釈しておくか・・・)
でも、母さんみたいに私は元気で医者いらずなんて言っている人の方が危ないからね。どこか悪いと自覚している人の方が、検査も怠らないし、結果として早期発見にもつながる。一概に長生きするかどうかは言えないよ。むしろ、その意味でも、あなたにはまだやりようがある、と思うね。
母さんも、頭の中スキャンしてくれないかな。色々わかると思うんだけど・・・。
難しいと思う。繰り返しになるけど、あの時、母さんが骨折で入院したT病院退院後、物忘れ外来に連れて行こうとしたあの時。あの時が全てだと思うよ。あれが、間違いなく、分かれ道だったんだよ。選んだのは母さんだと思ってる・・・これも運命かな。
・・・・。
それにしても、泊まっているとは思わなかった。
急遽決めたので言わなかったけど。後から一報入れようかと。
それは全然問題ないよ。
今回は、あまりに同じ事を繰り返し電話されるので、備忘録みたいなのを渡してメモにとどめてもらったらどうかな、と思って色々持参したんだよね。
あいかわらず、(遙か昔に入籍の報告に夫婦で帰省しているのに)早く籍を入れてくれとか電話くるし。それに兄さんの結婚どうしたの話も相変わらずしつこいし、それ私に言ってどうするのって思うし。とりとめのない養子の話持ち出すし・・・。
それは申し訳ない。でも何度言っても変わらないと思うよ。こちらはそれに閉口して着信拒否にした。あなたも、携帯二つ持つのも面倒だろうから、転送電話とか、何か方策があると思うけど。
着信拒否にしてみたら?
・・・・。
そのかわりこちらから毎週電話するようにしているよ。
やはり、それしかないのかなぁ・・・
そういう電話を夜な夜なされて、旦那さんは大丈夫なのか?
あの人はそれでどうこう思う人でないので・・・なんか、達観しているというか。
それならいいけどね。旦那にも迷惑かかってるんじゃないかと。
兄さんも母さんのことでよく仕事休むけど、それで大丈夫なの?
まぁ、今更仕事仕事でなくてもいいかなと・・・それにそのうち定年70歳になりそうだし先は長いよ。そちらはどう?そちらの業界と出版関連は不規則労働の権化のような業種だけど。あなたの健康も仕事と関係あるんじゃないの?
出版業界ほどひどくないけど。それに、こういうご時世だし、一応目立つ立場にある企業なんで、もう会社としては早く帰れ、という方向。
第一線はもう人に任せてるけど、うちのような業界は技術系が致命的に不足で、それでね・・・。 兄さんは英語できるからいいよね。
なんで?
あたし英語全然ダメだし。それなのに、この業界、マニュアルは全部英語なんだよね。それ読むのが大変。
できるといっても、関連してることなら、という範囲。どこそこの方言・なまりだとか、スラングだとか入ったら聞き取れないよ。マニュアルは関連単語が多いんだろうからなんとか読めるんじゃない?
単語がわかっても「つなぎ」がわかんないし。英語OKの人捜してるんだよね。Javaと英語OKなら優遇。それが条件。
それにしても驚いたよ。でも、泊まるとなると・・・朝は早くからがたがた始めなかった?
そうそう。それに同じ事繰り返し話しているので、のどが痛くなっちゃって・・・。
わかるよ。
でも、火事騒ぎとか、徘徊とか、世間に迷惑かけるようになると本当に大変なことになるし・・・。そういうことを考えると施設に入ってもらえると安心なんだけど。
今の状態では無理でしょう。右も左もわからない状態ではないから頑なに拒否するでしょうね。例のデイイービス自体未だに行かないくらいだから。それなりに意識ははっきりしてますからね。
いっそのこと何もわからない方が、施設のお世話になるにせよ、検査にせよ、事がきちんと進む気がする。
でも、何もわからない状態にすることは僕らにはできないからね。寧ろ、できうることは、今の引き籠もり状態を改善し、すこしでも長く今の、まがいなりにも右・左がわかる状態を維持してもらう、そうなるようにデイサービス利用に誘導する。目先それしかないと思ってる。
一方でTさんの言ってたこともあるし。
Tさんの言ってたこと?
何か起きてからあわてて、というのではなく。あらかじめ、こうなったら入所を決意する、そういう腹積もりであることを包括さんとの間ですりあわせておくことが必要、という話。
ああ・・・。
でも、どうなったら、についての考えは全く固まっていないので、すりあわせもできていない。
・・・。
それを頭に置きながら、母さんの時々の状況に対処しなければならない。
・・・、なんか、絵に描いたような老々介護になりそう・・・。
まっ、今回はご苦労様でした。そろそろ、時間だろう?
改札を抜け「それではよいお年を」と挨拶する妹を背に、そういえばもうすぐ新たな年がくるんだ、今は年末なんだ、と、それをすっかり忘れていた自分に気がついた。