毎週のように続けている週”慣”ご機嫌伺い。
この日この時間になると電話がかかってくる、というのは母の記憶にすり込まれたように思える。
あれっ、なんの用?などと返されることもない、ので。
では、先週話したことをしっかり覚えているのかといえば、かなり怪しい。
(いや、実は覚えていないふりをしているだけ、というならかなりのくせ者ということになる・・・)
例の脳活の集いには行ってるの?
歯医者の予約があって行けないんだよ。明日もまた行かなけりゃならないんだよ。
(毎度おなじみの返事だが、そう言いながら実は行っている、と先日包括さんに聞いた・・・当てにならないな・・・)
ずいぶん延々とした歯医者通いだね。今どんな段階なのか、先生に聞いてみた?
いや、型をとったから、そろそろできあがってくるんじゃないかなぁ。それに脳活の集いも余り面白い話があるわけじゃないし。
女学校とは違うんだよ。授業の内容が問題でなく、そういう機会をもらって、いろいろな同年代のお年寄りと交流するのが目的なんだよ。それが、刺激になる、脳活なんだよ。それが週一では少なすぎる、週六引きこもりでは問題だ、という話だよ。
例のデイサービスも、だからこそ勧めているんだよ。
そうだね。
そう思うんだけどね、この前デイサービスってどうなのかAさんに聞いてみたら”そんなとこ行ったら老け込んじゃいそう”って言うんだよ。
Aさんは90超えても書道教室開いているぐらい元気な方でしょう?AさんはAさん、母さんとは違うでしょう。じゃあ、母さんも外へ出て書道教室開くわけにもいかないでしょう?
そうだね。
でも、私はどこも悪くないし・・・。別に引きこもってばかりいるわけでもないし・・・八百屋にも行って話もしているし・・・。
どこか悪い人が行くのは病院。デイサービスは病院ではないよ。どこも悪くはないが、一人暮らしで引きこもりのままだと足腰も弱る、ストレスもたまる、そんな人達に外へ出る機会を作ろうと、健康長寿でいてもらおうと、そういう仕組みの中にあるのが、デイサービスだよ。母さんだって、俺と毎回毎回似たような話をするより、同年代のお年寄りの方が、共通の話題もあるし、話も弾むんじゃない?
そうだね。
そうだね、そうだね、ばかりだけど。それ、今年の流行語大賞だよね。
ああ、そうそう、そうだね、アハハハ。
毎度おなじみの八百屋で、いつもの人と代わり映えのない話をしても、刺激にはならないんだよ。脳が刺激を受けるのは、寧ろ、新たな人と、いつもと違う話をする時なんだよ。
月曜火曜は、脳活の集いもあるし、歯医者の予約もあるようだから、週の後半、例えば金曜日にどんなデイサービスなのかお試し体験してみればいいんだよ。あの人がこう言ったああ言った、でなく、じぶんで確かめないと本当のことはわからないよ。
一人で行くのが恥ずかしいなら、俺がそちらへ行って一緒に行ってもいいよ。
大丈夫だよ。
母さんのことだから、ほっといたらなにもしないのでしょう?今度包括さんが来たら、”お試ししてみようかな”と聞いてみてよ。
どうしたのか、あの包括さんは最近顔を見ないねぇ。
あまりちょいちょい顔を出すと、嫌われると心配してるんじゃないかな。それに、母さん専任担当じゃないしね。他に担当しているお年寄りも沢山いるでしょう。
そうだね。
俺も、デイサービスでどんなことをしているか興味があるんだよ。お試しで行ってみたら、こうだったああだったと土産話を早く聞きたいんだよ。
そうなの?
だから、包括さんに聞いてみてよ、お願いしますよ!
ところでやわらか弁当はどう?そろそろなくなるんじゃない?ちょっと今、冷凍庫見てきてよ。
・・・・・
未だ10個残ってる。弁当が冷凍庫にあるの忘れてた・・・。
ああ、そう。じゃあ未だ送らないでおくよ。今日にも早速一つ食べてよ、忘れないうちに。
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まだまだの感じもするが、母の言い訳はほぼ出尽くしたようで;
- 歯医者があるから・・・
- ご近所の話では・・・
- 八百屋にも行って話もするし・・・
- 身体が悪いわけでもないし・・・
辺りに固まってきたようだ。それが言い訳なのか、実は不安なのか、いずれにせよ、一つ一つ繰り返し、解きほぐすべく説得してゆくしかないのでしょう。
ただ、未だ母が繰り出していない言い訳が一つ残ってはいる。
・暖かくなったら・・・
だ。
”元気な頃”、母はプールに通っていた。身体の衰えと共に、そして、物忘れが激しくなってからはほとんど行くことがなくなった。プールへ行った方がいい(理由はデイサービスへ行った方がいい、というのと同じ)、という私に母が度々返してきた言い訳?がこれだ。
・暖かくなったら・・・
結局、春になっても、寧ろ暑くなった夏になっても、勿論、秋、冬、年が明け季節は巡り二度目の春が来ても、母がプールに行くことはなかったし、それでもなお、”暖かくなったら”と言い続けていた。
一方で、本人も認めているように見えることがある、それは
- 同年代の人と話をするのは楽しい
ということ。
母の心の秤の振れ具合を気にしながら、あのストーン、このストーン、と投げ続けることになるのかな。
ソダネ~