NHKドキュメンタリー、「人生100年時代を生きる」を視聴。17・18日連夜放送の内、第1回は「終の住処はどこに」。
何かと話題のサ高住についてのもので、番組紹介にはこうあった。
人生100年時代の新たな終の住処として急増する「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」。しかし、現場では思わぬ事態が起きている。“サ高住”の光と影を見つめる。1回目は『終(つい)の住処(すみか)』について。深刻な施設不足が懸念される中、切り札として登場したのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」。国は多額の補助金を投じ民間企業の参入を促してきた。ところが現場では認知症の高齢者の急増などで思わぬ事態が起きている。サ高住は“救世主”になるのか。徹底ルポと独自の大規模調査で実態に迫る。
”徹底”、”大規模”であるのかは検証できませんが、
番組内でまず掲げられたこの数字;
認知症発症率
66歳~ 2.2%
70歳~ 4.9%
75歳~ 10.9%
80歳~ 24.4%
85歳~ 55.5%
実に85歳以上で55.5%、二人に一人は認知症発症、というものだ。
そもそも論として、その認知症発症率を下げる手だては日本では講じないのか、という焦りにも似た思いが私にはありますが、今回の番組はそこに関する部分ではなくあくまでも現状についてのドキュメンタリー。
終のすみか、としてのサ高住が国の政策も有り急増しているが、そのサ高住に認知症を発症している入居者が増加。元々、自立している、もしくは軽度の要介護高齢者用の受け皿であるサ高住には限られた職員しか常駐しておらず、認知症患者の見守りに手が回らない。
国で定めているところの、各介護関連事業者に支払われる介護報酬は、
要介護1 170,000円
要介護2 200,000円
要介護3 270,000円
要介護4 310,000円
要介護5 360,000円
と介護度が上がるにつれ手厚くなる。
ところが、「認知症の高齢者は要介護認定の結果が軽く出る傾向にある」。そんな中、元々、”比較的元気な”高齢者の受け皿であった施設で、実際は認知症入居者の介護・見守りに現状の人員(=人件費)での対応が迫られる、という想定外の事態が起きている。
当然、現状のマンパワーでは対応仕切れないので、対応する人員を増やせないか検討する ⇒ 現状の介護報酬の枠内では人件費増=赤字 ⇒ マンパワーは増やせない ⇒ 現状のままで認知症入居者への見守りは難しい(人海戦術は限界)⇒ 問題行動の多い方に退去をお願いする、という流れが表面化。
(僅かばかりの経験ながら、私も、「認知症の高齢者は要介護認定の結果が軽く出る傾向にある」、そんな印象は受けておりました。)
昨年度、サ高住では3334件の事故が起こり、内、死亡179件、という実態があるという。(果たしてその全てが、”想定外の事態”が原因なのかについては番組内での明言はなかった)
番組では、福岡のサ高住「スマイル板付」の施設長が、現場と経営の間で板挟みになり思い悩む様を紹介。(NHKが何故施設名を公表したのかは?)
なんとか入所者(認知症)の終の住処としての役割を果たしたい、サ高住でも対応するに必要な最低限の人員は増員したい、という現場、一方、現状でも赤字で人件費は増やせないという経営サイド。
しわ寄せが益々、現場の負担(番組では施設長自らが夜勤対応)増につながるのか、いや結局、入所者への目が届かなくなるのか、それとも、経営が成り立たなくなるのか、将来展望が見えない状況。
「わたし、この施設長が心配だわ」という司会の阿川佐和子氏に同感。こういう風なプレッシャーにどうにもならなくなり、身体を壊す、離職に至る、そんなケースも業界にはあるのかも、という思いが湧き上がる。
そして、対照的な例として今ひとつの施設が紹介される(当然ながら名称はふせられていた)。こちらの施設では入所者を選別入所させている。つまり、企業体として「利の見込める」そして「問題行動のない」対象者に限って入所させる、というもの。その関係者は「そもそも国がそういう制度にしているのだから・・・」と指摘する。
そこまでは、番組がヒール役として取り上げたのであろうし、特色?に違いのある施設があることは、想像の範囲内。が、少々(というかかなり)違和感を感じたのはその関係者の以下の文言。
✔「利の見込める」対象者として要介護4,5の方々を中心に入所させているにもかかわらず、要介護3の方も入れるのか?との問いかけ場面;
”施設に入ればまた感覚が違う。日常生活(でできること)が落ちてくる可能性が高い。3の方が悪くなれば4になる。だから売り上げが上がる。”
✔近々とある病院を退院し入所を希望している対象者と面談に向かう車中;
”車椅子っていう話は聞いているんですよね。車椅子から立ち上がろうとかベッドから起き上がろうとか、そういうリスク(!)がなかったら入所してもいいのかなと思う。”
そこまで割り切ったのか・・・。モザイク処理なので不確かだが、多分経営サイドの関係者なのだろうが、と思えた次第。いずれにせよ、そういう思いになるバックグランド・経緯についての報道はされていないので、果たして、過去どれほどのキツイ経験あっての、その割り切りに至ったのかはわからない。
ただ、”比較的元気な”、”ある程度自立ができている”高齢者の終のすみかとしての受け皿であったはずのサ高住。実は、より重篤な介護度の方々の受け皿となっていた、というのは違うのではないか、と。それも、「そもそも国がそういう制度にしているのだから・・・」ということなのか?
「正直、寝たきりの方の方が手がかからないから・・・」というモザイクの向こうの方に是非聞いてみたい、それも「そもそも国がそういう制度にしているのだから・・・」ということなのか?と。「手のかからないお年寄り」とは「比較的元気なお年寄り」であったはずなのに、このサ高住では・・・。
「あんた、現場を知らないからだよ。素人がきれい事いうなよ。」と返すのだろうか?
要介護度が重い人にたくさんの報酬が支払われ、軽い人には少ない介護報酬しか支払われない。そこには一つの合理性はあるが、それが続く限り”割り切った”サ高住は存続し続け、介護、という見方からすれば、本末転倒な状況が続くことになる
と番組は指摘する。
本来元気になる事は喜ばしいことなのに、結果的に施設は報酬が減る、利用者側は受けられていた介護サービスが受けられなくなる、入れるであろう施設が入れなくなる、のでハッピーな状況が起こっているのにアンハッピーさを感じている状況
東洋大学准教授/高野龍昭氏
「近年になって要介護度を軽くするノウハウを持った事業者が増えてきた。本人を中心にしてケアを提供したら問題行動が問題行動ではなくなるケースが相当出てきている。
それを見極めて良くするような事業者が出てきているが、良くすると事業者は収入が減るから困る→そこにご褒美(報奨金)を出したらどうか。
一部今年度の介護保険改正で始まってはいるが、まだまだ試験的な試みで まだ報酬上反映されていない。1つはそのような成功報酬を導入していくこともこれからは必要。」
番組では2件のサ高住を紹介。
1)要介護度を改善する試みを行っている岡山の施設
サ高住としては異例のリハビリ用器具が備え付けられ、「何か1つでもできることがちょっとでも増えたら、その人の人生がもう少し広がるんじゃないか」と関係者は語る。
入居者の豊三さん(94歳)は、太ももの骨をに2度骨折。医師からはもう歩く事は難しいと告げられた。リハビリを始めて半年、短い距離なら杖を使って少しずつ歩けるようになったという。
豊三さん「目標は杖をついてもいいからなんとか1人で外出ができる位になりたい」
「高齢者はもともと何かやってきている人たちなので役に立っていると感じると意欲も高まる」
2)こちらは看護師が常駐、介護に加えて医療処置も行っている。特養に比べ人手も少なくリスクもあるが、入居希望する人にそれをあえて伝えている。入居者はそのリスクについて納得の上、入所を判断する。
関係者「僕らは掲げられない、“絶対に見ます”とか。気づかない時は気づかない。人の行うことなので100%はない。自分たちしかできない施設を建てたいと言う思いがあったので、亡くなられるまで終の住処として看られるような施設を作れたらいい。」
色々な施設ができていく
そういった施設をどうやって我々は選べばいいのか
阿川氏が紹介した、元気なうちに見て回る、のも一つのアイディアだろう。
アメリカでは老人ホームの介護の質を誰にでもわかる形で公表している。政府機関が老人ホームの質の評価をして、この施設は体の動きが良くなった人が20%、別の施設は10%。体の動きを良くしたいと考える人は20%の施設のほうがいい、といった具合。
情報を公的機関が収集し、その情報提供をすることが必要。介護サービスに関する第三者評価データの公表などを段階的にやっていくと5年10年先今とは状況が変わってくる気がする。
「介護する側の都合で制度を作っていくだけではなく、介護される側の気持ちをもう少し入念に拾っていくことをしていかなければいけない。」
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申し訳ないが、最後の阿川氏の結びは、わたしの憂鬱な気分を晴らす特効薬にはならなかった。
自分自身整理ができていませんが、
高野氏言うところの「一部今年度の介護保険改正で始まってはいるが、~成功報酬を導入していくこともこれからは必要」とは、以前「母と塗り絵」の中で引用した以下のことと類似の内容かと思うのですが、
群馬・高崎には全国から視察が殺到しているデイサービスがある。こちらのリハビリが高い効果を得られると評判で、1人1人が行っているリハビリの種類・時間をデータとして記録している。これまで蓄積された700万件のデータを元に解析、有酸素運動・筋トレ・認知トレーニングなど8つに分類したメニューから症状を改善するのに最適な組み合わせをはじき出している。リハビリの一貫としてシミュレーションゴルフも完備、1つ1つが楽しく行えるよう工夫している。去年は利用者の8割以上が要介護度を維持・改善ができ、新しい介護制度では成果報酬をうけられると考えられている。
要介護度が高い方が介護報酬がより高額となるため、要介護度が低い方が取り残される
それを回避すべく(私見)、成功報酬制度を導入する
しかし、それはそれで、今度は反対側から「成功の見込めない重篤な症状のお年寄りが取り残される」という批判が生まれている。
メディアに左へ右へと扇動されるのも本意ではないが、こうなればああだ、ああなればこうだ、で、いつ具体的になるのか。5年10年先?その間は?
図らずも番組の冒頭で掲げていた数字がある。
2015年の要介護者620万人、2035年には推定960万人
認知症介助士のテキストにはこのような数字が記載されている。
2010年の日常生活自立度II以上の認知症高齢者280万人、2025年には推定470万人
「終の住処はどこに」。なるほど切実な問題だ。人ごとではない。我々、もしくは更に若い世代には、”自ら冷静な判断ができるうちに”それを考えておく必要がある。子どもがいるなら、なおさらそれは「必要」のみならず「義務」である、とさえ思う。
でも、その前に、だ。
「認知症はどうするの」
認知症発症率
66歳~ 2.2%
70歳~ 4.9%
75歳~ 10.9%
80歳~ 24.4%
85歳~ 55.5%
この数字に倣った「人生100年」を歩むのですか?