先月、母の救急搬送騒ぎで、急遽仕事を休む折り、
「母は既に認知症を発症していると思われるので、事の成り行き次第ではさらなる休暇となる可能性も」
と周辺の方々に伝えていました。隠す意味もありませんし。
当然のごとく、その情報はすっかり拡散され、皆さんの知るところとなり、(結局、逆流性食道炎だったということで)ごく短期間休んだ後、私が戻ってきたのを見つけ、
「真坂さん大丈夫?お母さんはどうなの?」
とあちらこちらから気遣いのかけ声が。
そんななか象徴的なものがあったのでとりあげておきます。
まずは、Oさん。Oさんは学生時代ラグビー部、今も休日はランニングを欠かさない体育会系。がっしりボディーの健康オタク、なぜか芸能情報に詳しい(関係ないか)。
「お母さん、大変だねぇ。」
「いや、これまで頑として物忘れ外来も受診しないし、介護サービスも受けないんだよ。」
「だよね。うちの母も、訳の分からぬ集いになんか行かないとぐずぐず言うので、頭にきてびんたくれたこともあるんだよ。」
「えー!びんたですか・・・」
「それが今じゃぁ、楽しい楽しいと、率先して行ってるよ。食わず嫌いなところもあるんじゃないかな。最初は、一緒に行くというのも有りかもね。」
"やっぱ、いざとなったら、びんたですね"
という結論には行き着きそうもないが、普段は芸能界裏情報話に花を咲かせているOさんにも、そんな切羽詰まった場面があったのかと初めて知り、少々びっくりした。
でも、びんたはできんな。
ただ、一方で、介護疲れからの暴言、暴力、あるいはそれ以上、にまで、という話も時々に世で聞く話ではある。
現状、私の母は私が誰かということもわかるし、路も迷わない。
TV番組等の介護特集では絶対に放送されないような切羽詰まる場面も当然そこかしこに存在しているはずで、果たして私がそういう状況に追い込まれたらどうなるのだろうか、という不安が実は私の心にもある。
介護だ、認知能力だ、が、自分でも少々驚いたくらい、身近な周辺でも起きていることなんだ、と初めて認識できたOさんとの会話だった。
そしてパートのSさん。とりあえず還暦はすぎている。
私に会うなり、心配そうに、
「大丈夫でした?大変でしたね。」
と声をかけてくれた。
「いやね、あらためて思うんだけど、うちの母のように頑として物忘れ外来も受診しないし、介護サービスも受けない、ってことが、結局事態を悪化させている気がするんですよね。みすみす自ら、発症の道を選んでしまっているような気がするんだよね。」
Sさんの真顔がさっと曇るのが近眼の私にもよくわかる。
「物忘れも早い段階で、検査・治療に踏み出せば、進行を遅らせる可能性もあるのにね。」
「えっ!そうなの!」
そんなに驚くとは思わなかった。また、それを初めて聞いたという風な表情に二度驚いた。
「なんか、身につまされる。他人事とは思えないわ。」
いや、いくら還暦すぎているとはいえ、Sさんは見た目まだまだ若い、それなのにあの表情と、驚き方。
それだけ皆さん、「そのこと」が”内心とても心配”なのだ、と遅まきながら気がついた。